Number ExBACK NUMBER

「“ド正論ぶちかまし野郎”だった」ラガーマン川村慎(37歳)が「弱さが強さにつながることを実感した」ワケ《よわいはつよいプロジェクト全貌》 

text by

二宮寿朗

二宮寿朗Toshio Ninomiya

PROFILE

photograph byHideki Sugiyama

posted2025/02/26 11:03

「“ド正論ぶちかまし野郎”だった」ラガーマン川村慎(37歳)が「弱さが強さにつながることを実感した」ワケ《よわいはつよいプロジェクト全貌》<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

「よわいはつよいプロジェクト」の発起人:左から小塩靖崇(国立精神・神経医療センター研究員)、川村慎(ラグビー選手)、吉谷吾郎(クリエイティブディレクター)

「ニュージーランドやオーストラリアは10年以上、PDPの取り組みをしているので選手側もチーム側もPDMを受け入れやすい。カウンセラーやキャリアアドバイザーといったある種、専門家が担っても違和感はないんです。でも日本の選手たちに、いきなりそういった方が出てきて『あなた、どうしました?』と聞かれても、選手たちは『別に病気じゃないから』と受け入れにくい。それはニュージーランドやオーストラリアの人からも言われました。

 勘違いしてもらいたくなかったのはPDPは特にメンタルヘルスケアのプログラムではないということ。PDMにどんなことでもいいから気軽に話をしてみるという枠組みなんです。オープンスペースで週1回、半強制的に話をする時間を持つことになっていて、たとえばそこで悩みを打ち明けたりすれば、結果的にメンタルヘルスのサポートになっている部分は当然あります」

 つまり、悩み相談となると、選手からすれば近づきにくい。かつ、雑談だと強調したところでいきなり心理の専門家を相手に話すというのも、心の不調を実感していなければ抵抗を感じてしまうのは仕方がない。

約20人の選手をモニタリング

ADVERTISEMENT

 ここで川村は小塩や吉谷のアドバイスを受けながら一計を案じた。慶応大の先輩で日本代表キャプテンを務めた廣瀬俊朗をはじめトップアスリートのOB、OGにPDMをお願いすることを思いついたのだ。候補者の賛同を得たうえでPDMの研修を受けてもらい、希望したトップリーグ(当時)約20人の選手を対象にしてモニタリングを実現する。手応えは上々だった。

「選手側は全員“やって良かった。絶対にやるべきだ”という反応でしたし、PDM側からも“現役時代にあれば良かった”という評価をいただけて、有益なものであることはよく分かりました。ただ、ラグビーにおける選手会の立ち位置が海外と日本では全然違います。海外の選手会は選手の肖像権で得た何%かをPDPなどの活動に充てることができますが、日本の場合は選手会にお金がないので(運営する)資金の問題を抱えつつ現在に至っています」

 川村は会長職を2年務めて、日野剛志(静岡ブルーレヴズ)にバトンタッチ。自身は「Japan PDP」を立ち上げ、スポーツ界全体に広げていくべくPDMの養成プログラムを実施する一方で世の中への発信を強めていくべく「よわいはつよいプロジェクト」に力を注いでいく。

 

 

 PDPと「よわつよ」の両輪を同時に回していくことが大切なのだと彼は訴える。

「金魚と水槽の関係性と同じなんです。金魚への薬がPDPとして、水槽がよわつよだとしますよね。薬で一時的に治っても、水槽のほうがダメだとまた病気になってしまう。心の弱さを受け入れられる社会に変えないと、苦しい人たちは結局いつかまた苦しくなる。だから両方を一緒に走らせなければならないんです」

「よわつよ」には現役ラガーマンも参加

「よわつよ」は社会環境自体を変えていくべく、ホームページやSNSでの発信に加えて学校、企業を対象としたセミナー、ワークショップも開催している。

 小学校で実際に行なった内容の一部を紹介すれば、悩みごとを紙に書いてペタペタと体に貼ってみる。動きにくくなることを実感でき、誰かに剥がしてもらうと楽になる。思い切って話を人に打ち明けたり共有できたりすれば、川村いわく「ヘルプを頼みやすくなる」。閉じこもるのではなく、受け入れて少しずつ悩みを剥がしてくことが「強さ」につながっていくという考え方だ。

【次ページ】 「よわつよ」には現役ラガーマンも参加

BACK 1 2 3 NEXT
#川村慎
#慶應大学
#横浜キャノンイーグルス
#小塩靖崇
#吉谷吾郎
#廣瀬俊朗
#姫野和樹
#田村優

ラグビーの前後の記事

ページトップ