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「走るを通して義足ユーザーの可能性を」“総合福祉機器メーカー”オットーボック・ジャパンの挑戦「パラリンピックでは無償修理サービスも」
posted2025/02/18 11:00

オットーボック・ジャパン代表取締役社長・深谷香奈氏
text by

二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
Wataru Sato
一歩前に踏み出せば、世界が変わる。
義足を使って歩くどころか、走ってみる。松葉づえで歩くだけでやっとだった人が、初めてスポーツ用義足を着けて走ることにチャレンジしていく。転ばないようにサポートする周りに支えられ、数歩、数メートルを走ってみる。バランスを崩して抱えられると、それで終わりにするのではなく今度はもっと先へ行こうとする――。
スポーツ義足で走る「ランニングクリニック」
昨年12月、社会課題解決に取り組むアスリート、団体を表彰する「HEROs AWARD」において総合福祉機器メーカーのオットーボック・ジャパンが受賞した。スポーツ義足を着用して走る「ランニングクリニック」の活動が高く評価された。参加者は無償。「走る」を通して義足ユーザーたちに、自分の可能性を広げて前向きにチャレンジしていくことの大切さを伝えている。
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ランニングクリニックは元々、ドイツにある本社が、アテネからリオまで4度パラリンピックに出場して100m、走り幅跳びで金メダルを獲得したパラ陸上界のレジェンド、ハインリッヒ・ポポフの意向を汲んで始めたもの。その反響を聞き、東京パラリンピックの開催決定を受けて2015年に日本でもポポフを招いて実施したことが始まりだった。
イベント開催の陣頭指揮にあたった深谷香奈社長は当初、不安で仕方がなかったという。
「本当に日本でも実現できるのかな、というのが率直な思いでした。10人ほどの義足ユーザーさんを募って、なかにはスポーツ用義足を使ったことも、走ったこともない人もいるので無理ではないか、と。転んでケガでもされたら、保険には入っているとしてもメーカーとしてはやっぱり怖い。評判が悪くなってしまうことだってあり得るわけですから。最初はもうハラハラドキドキでした」
「大変」という表現では収まりきらない
だが実際にイベントをやってみると、そんな心配など吹っ飛んでしまう。まるで参加者の心情とシンクロするようでもあった。