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「走るを通して義足ユーザーの可能性を」“総合福祉機器メーカー”オットーボック・ジャパンの挑戦「パラリンピックでは無償修理サービスも」 

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二宮寿朗

二宮寿朗Toshio Ninomiya

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photograph byWataru Sato

posted2025/02/18 11:00

「走るを通して義足ユーザーの可能性を」“総合福祉機器メーカー”オットーボック・ジャパンの挑戦「パラリンピックでは無償修理サービスも」<Number Web> photograph by Wataru Sato

オットーボック・ジャパン代表取締役社長・深谷香奈氏

「最初はみなさんも“本当に走れるのかな”とか“うまく走れるのかな”と不安だったはずです。表情もすごく硬かったですね。でも段々とうまく走れるようになってきて最終的には喜んでもらえるし、うれしくて泣いてしまう人もいる。それにみなさんでつながりができて友達になるんですよね。ユーザーさんにとって新たな可能性を広げるばかりでなく、内面を含めていろんな扉を開くことができる機会だなって感じたんです」

 かくして手弁当で行なう年に1回のランニングクリニックは、オットーボック・ジャパンの恒例行事となっていく。とはいえ、準備と開催中3日間の対応は「大変」という表現では収まりきらない。社員の半数以上となる20人ほどが出動しなければならなくなる。

「数年は毎回ドタバタしていました」

 深谷が言葉を続ける。

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「義足、装具、車イスなどの日々の修理や通常業務があるので、ランニングクリニックは主に営業チームに頑張ってもらっています。ほとんどが義肢装具士の資格を持っていて、参加者のみなさんに(スポーツ用義足を)一気にフィッティングしていきます。事前に情報をもらっていても実際身に着けてみると合わなかったり、数ミリ分長い、短いがあったりするので、まずもってたくさんのパーツを用意しなければなりませんし、工具も全部そろえておかなければなりません。フィッティングが快適でないと“走ってみてください”なんて言えませんから。最初の数年は毎回ドタバタしていました」

 当初は競技場を会場にしていたが、参加者が転んでもケガをしないようにと芝生のある会場に変更。完璧な準備と対応によって良い評判が広がっていく。参加者ばかりでなく医師、理学療法士、義肢装具士など学びを得るために関係者の見学者が多く集まってくるのもランニングクリニックの特徴だと言っていい。

 3日間に及ぶイベントは、走るための基本トレーニング、筋力トレーニングなどがしっかり組み込まれている。一度だけの体験ではなく、継続的なチャレンジを促す意味もある。義足ユーザーに走る喜びを感じてもらう一方で、ポポフらを招いての直接指導はパラアスリート育成の側面にもつながっていく。東京パラリンピック、パリパラリンピックに出場している兎澤朋美もその一人である。

 ランニングクリニックのほかにオットーボック・ジャパンが「HEROs AWARD」を受賞したもう一つの取り組みがある。それがパラリンピックでの無償修理サービスだ。義足、車イスなどメーカー問わず、選手が持ってきたものはすべて対応する。ドイツにある本社が1988年のソウル大会からスタートさせ、1999年設立のオットーボック・ジャパンも2000年のシドニー大会から技術者を派遣している。

無償にしているのはサービスを受けてもらうため

 2021年の東京パラリンピックでは義肢装具士の資格を持つ深谷もチームに加わっている。ドイツから機材を運びこみ、世界から106名のスタッフが集まった。大会期間中に2083件の修理をこなしている。

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