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「笑われてもいいじゃないか」“ぬるま湯クラブ”だったカターレ富山の意識改革「これだけ立派な企業が…なんてもったいないんだ!」左伴繁雄69歳の情熱 

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宇都宮徹壱

宇都宮徹壱Tetsuichi Utsunomiya

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photograph byTetsuichi Utsunomiya

posted2025/01/27 17:01

「笑われてもいいじゃないか」“ぬるま湯クラブ”だったカターレ富山の意識改革「これだけ立派な企業が…なんてもったいないんだ!」左伴繁雄69歳の情熱<Number Web> photograph by Tetsuichi Utsunomiya

クラブにかかわる人々の“意識改革”を促したカターレ富山の左伴繁雄社長。サポーターからの支持も厚い

 その上で、こうつづける。

「もし、地元での楽しみ方を知らないのであれば、その人たちを明るくしたい。『ここにカターレ富山があって良かった』と思っていただきたい。実は久和会長にお会いする前から、そういうビジョンがひとつの大義として、僕の中では固まっていました」

社員に宣言「最初の3年間は無条件で従ってくれ」

「マリノスでは『とにかく優勝してくれ。そのためなら、いくらでも出す』というスタンス。湘南では『J1に行くには、これくらい必要だから(お金を)引っ張ってきてください』でした。清水は清水で『俺たちサッカー王国』というプライドがある中、いかに外様社長のやり方を納得してもらうかで大変でしたね」

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 これまで経営を担ってきたクラブには、それぞれに異なるミッションがあったが、左伴には変わらぬ信念があった。それは「権限と責任とガバナンス」である。

「特に重要なのが、権限と責任のバランス。責任ばかりが問われる会社に、優秀な経営者は来ない。逆に、トップが権限ばかりを行使して責任を取らないタイプだと、そんな組織に優秀な部下は来ないですよね。湘南でドブ板営業をやっていた時も、清水でスポーツビジネスのプラットフォームを構築した時も、常にベースにあったのは権限と責任とガバナンスでした」

 最も理想的な環境を与えてくれたのは「ゴーンさんが日産にいた頃のマリノス」。すべてを任せてくれたからこそ、日産の庇護を飛び出して思い切り力を発揮することができた。ゆえに富山では、すべての権限を自分に集中させることを求めたという。

「富山をJ3から脱出させるためには、相当な力技が必要になります。ですから『最初の3年間は無条件で従ってくれ』と社員には言いました。違和感や抵抗感を覚えることでも、すべて俺の言うことを聞いてくれと。その代わり、会社のトップラインを上げられなかったら、俺はすぐに辞めるからと言いましたね」

 左伴による意識改革は、社内だけにとどまらなかった。講演会に招かると、地元の経営者を前に得意のマシンガントークでまくしたてた。

「このクラブはJ3だし、スター選手がいるわけでもない。まずはここにいる皆さんが、一歩前に出ないと何も始まらないんですよ。感動はタダでは買えない。ただ待っていても、感動は絶対にやって来ないんです。これだけ立派な企業が揃っていて、なんてもったいないんだ!」

【次ページ】 「笑われてもいいじゃないか」左伴が促した“意識改革”

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