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「ずっとどんぶり勘定で…ガクっときた」J3に低迷“ぬるま湯クラブ”を69歳社長はどう変えたのか?「これじゃあ、絶対に上がれない」カターレ富山の挑戦
posted2025/01/27 17:00
text by
宇都宮徹壱Tetsuichi Utsunomiya
photograph by
Tetsuichi Utsunomiya
劇的なJ2昇格も…なぜ“異様なまでに冷静”だったのか
劇的な展開の試合が、実は当事者たちにとって必然に満ちた結果であることがある。2024年12月7日、富山県総合運動公園陸上競技場(通称、県総)で行われたJ2昇格プレーオフ決勝。カターレ富山vs松本山雅FCは、まさにそんな試合であった。
アウェイの松本は18分と26分に得点を重ね、2点リードでハーフタイムを迎えた。3位から6位までが参加できる昇格プレーオフは、レギュラーシーズンの順位が上位のチームに「ホーム開催」と「引き分けでも勝者」というアドバンテージが与えられる。条件で優位に立つ富山は、いきなり危機的な状況に直面することとなった。
メインスタンドのスポンサーシートで、富山のステークホルダーたちがざわつく中、ひとり楽観していた人物がいる。クラブ社長の左伴繁雄だ。
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「サッカーでは『2-0は危険なスコア』って言われていますけど、松本が前半で2点を入れた時に、後半は守りに入るだろうなって思ったんですよ」
社長の見立ては的中した。逃げ切り姿勢を鮮明にした松本に対し、富山はロングボールを繰り出して、シュートコースをこじ開けようとする。そして80分、左サイドからの伊藤拓巳の折り返しに、碓井聖生のヘディングシュートが炸裂して1点差。さらに90+3分には、吉平翼のクロスにまたしても碓井が頭で捉え、ついに同点に追いつく。
そして、タイムアップ。実に11年ぶりとなる、カターレ富山のJ2復帰が決まった瞬間、選手もスタッフも揉みくちゃになって喜び合っている。そんな中、シングルトレンチコート姿の左伴は、違和感を覚えるくらい冷静な表情を崩すことはなかった。
劇的なドローが、まるで必然であったかのような振る舞い。確信の理由を問うと、左伴は「数字って正直でね」と前置きして、こう続ける。