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「ちゃんとやってよ」イチローの激励に“困惑”した智辯和歌山の4選手はドラフト候補に…「イチローさんのワードセンスのスゴさを感じてます」
posted2025/02/18 17:00

2020年冬に智辯和歌山高校野球部を指導したイチロー。その翌年の夏の甲子園で智辯和歌山は優勝した
text by

田口元義Genki Taguchi
photograph by
Naoya Sanuki
発売中のNumber1114号に掲載の《[教えを受けた高校生の今]濃密な3日間から4年が経って》より内容を一部抜粋してお届けします。
「ちゃんとやってよ」イチローの激励に困惑
「ずっと僕、見てるから」
イチローが宣言し、少しの間をおいて選手たちにも約束を促す。
「ちゃんとやってよ」
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2020年12月4日。高校生を初めて指導したレジェンドからのメッセージは、あまりにもシンプルだった。
智辯和歌山のエースだった中西聖輝が当時を振り返り、顔をほころばせる。
「最後の言葉って、それだけで終わったんですよ。だから、その時は『ちゃんとやってよ、かぁ……ちゃんとやってるけどなぁ』ってあまりピンとこなかったというか」
中西のように、多くの選手がイチローからの激励に困惑していた。
じわじわ響くワードセンス
だが、イチローによって息吹を注がれたその言霊は、じわじわと響いていく。4番バッターを担っていた徳丸天晴が脱帽する。
「自分も最初は『あ、あぁ……はい』みたいにスッと入ってこなくて。でも、日を追うごとにあの時の言葉を思い出してくるというか。イチローさんのワードセンスのすごさを感じています」
生のイチローは映像で見る以上に体つきに厚みがあった。凜とした立ち姿。颯爽とした走り方。一挙一動に無駄がなく、ウォーミングアップから真剣さが伝わってくる。
1年生キャッチャーだった渡部海は、その姿勢に感化され、自分を顧みたという。
「高校の時って練習がメインだと思っていて、アップとかってそこまで重点を置いていなかったんですけど、イチローさんはそこから躍動感があって。『メジャーでも超一流になる人は、一つひとつの動作にこだわりがあるんだ。自分もそうならないとダメだな』って参考になりました」
イチローのキャッチボール相手を務めた徳丸も、「先の練習を考えずに一球、一球、集中して全力で投げよう」と基本を再確認させられた。ともに過ごした3日間、グラウンドで誰よりも“ちゃんとやる”ことを体現していたのは、現役を引退して1年以上が経つイチロー自身だったからだ。
レジェンドを前に緊張した面持ちで質問を投げかける選手に対し、これまでに培ってきた経験をもとにアドバイスを送ってくれたことも、彼らを奮い立たせた。
1年生ながらベンチメンバーだったピッチャーの武元一輝は、イチローの言葉に救われたひとりだ。人より中指が長いため、ストレートがナチュラルに曲がる、いわゆる“真っスラ”に悩んでいた。
「そのままでいいんじゃない。自分の特徴を伸ばしたほうがいいよ」
自らが「悪」と断じていたボールを、イチローは「個性」と認めてくれたのだ。