箱根駅伝PRESSBACK NUMBER

「神野は終わった」と言われても…箱根駅伝“3代目山の神”に新チームが“選手兼監督”オファーを出したワケ「もっと好記録の選手はいる。でも…」 

text by

泉秀一

泉秀一Hidekazu Izumi

PROFILE

photograph byAFLO

posted2025/01/08 17:01

「神野は終わった」と言われても…箱根駅伝“3代目山の神”に新チームが“選手兼監督”オファーを出したワケ「もっと好記録の選手はいる。でも…」<Number Web> photograph by AFLO

2023年大会(写真)をはじめ、2度のMGCではいずれも苦戦した神野大地。青学大時代「3代目・山の神」と呼ばれた男は、苦難のプロランナー生活をどう振り返るのだろう

 金銭まわりを担当した高木はスポンサーを集めるために、さまざまな会社の「お問い合わせフォーム」から何通ものメールを送ったという。

 最終的に再生医療ベンチャーのセルソースとニューバランスの2社を大口スポンサーとして獲得し、神野のバックアップ体制が整っていった。

神野が「もう辞めよう」と思った時は…?

 アスリートの世界は残酷だ。どれだけ努力を重ねたとしても、結実しないことの方が多い。

ADVERTISEMENT

 神野のプロ生活も、順風満帆というわけにはいかなかった。東京、パリと2度挑戦した選考会(マラソングランドチャンピオンシップ)で敗れ、五輪への出場は叶わなかった。

 タイムの面でも、男子マラソン界に到来した記録続出の波に乗り切れなかった。

 18年2月の東京マラソンで設楽悠太が2時間6分11秒を叩き出して16年ぶりに日本記録を叩き出すと、大迫傑(2時間5分50秒、2018年10月シカゴマラソン)、鈴木健吾(2時間4分56秒、2021年2月びわ湖毎日マラソン)がさらに更新していった。

 その他にも2時間5分台、6分台の選手が続出し、全体のベストタイムがぐっと引き上げられていた期間だ。

 しかし、神野のベストタイムは2021年12月の防府読売マラソンで記録した2時間9分34秒で、国内トップの選手たちとの距離は開いてしまった。

 次第に注目度は下がり、「もう神野は終わった」と冷たい指摘をするマラソンファンも少なくなかった。プロとして競技に向き合った6年半で、神野は一度だけ心から辞めたいと思った瞬間があったという。

「結果が出ずに苦しんでいましたけど、辞めたいとは思いませんでした。いつだって、まだチャンスはあると信じられた。でも、一度だけ辞めそうになった時があります。21年2月のびわ湖の後です。鈴木健吾選手が日本記録を出したレースで、僕は2時間18分もかかった。あの時は、もう自分は無理なのかもしれないと、絶望しかけました」

 当時の状況を、高木はこう回顧する。

「びわ湖の後だけは、横で見ていても本当にキツそうでした。ほとんど放心状態に近くて、今後の話をする余裕もなく、そっとしておくしかできない状態でした」

【次ページ】 「勝てなくても走る。逃げたくないから」

BACK 1 2 3 4 NEXT
#神野大地
#青山学院大学
#高木聖也

陸上の前後の記事

ページトップ