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落合博満がトイレでたった一言「いけるか?」谷繫元信を説明なしで途中交代、和田一浩に「無駄が多すぎる」ドラゴンズを支配した“緊迫感の正体”
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byJIJI PRESS
posted2024/12/31 11:30
中日ドラゴンズ監督時代の落合博満
説明しない、励まさない…その先にある自主性
「指導してはならない」。これは指導者にとって最も過酷であろう。言葉は悪いが、ある意味で指導を押し付けてしまえば、あとは選手次第だ。一方で選手の課題を知りながら、本人が悩みにぶつかるまで待つことは辛い。だが、選手にとってどちらの指導が胸に残るかは言うまでもない。実際、初年度の落合竜のコーチ陣はひたすら選手を観察していた。
また、選手と食事に行かないというのは派閥を生まないためであり、首脳陣と選手の間に明確な一線を引くためである。落合が選手の立場まで降りて、いちいち采配を説明しないのと同様だ。プロ野球に限らず、近年では選手の肩を抱き、悩みを聞いて励ます、いわゆるファミリー型の指揮官が目立っているが、落合の考えはまったく反対だ。
おそらく言いたいことは山ほどあるだろう。選手が不満を抱けば、それも察知しているはずだ。それでも沈黙を貫く。無口なのではない。あえて黙する。それがチーム内の馴れ合いを排除し、緊迫感を生む。選手を考えさせる。その結果、自主性(=オレ流)が生まれる。逆に指揮官の沈黙の意味を考えられないようでは落合竜では生き残っていけない。
落合博満が築き上げた“常勝軍団の礎”
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和田は監督をこう評する。
「選手は監督の駒。ただ監督だって人間だから情であるとか、そういう部分が出てしまう。でも落合監督は選手を完全に駒として動かせる人。勝ちに徹することができる」
谷繁は言う。
「たとえ、前の年に130試合、140試合出たとしても、今年だめだったらすぐに代えられる。代えられないために頑張っている。オレは監督の手のひらにうまく乗せられて、やっているようなものかな」
どんな選手も駒に過ぎない。技術が落ちれば外される。リーグMVPの強打者も、球界を代表するベテラン捕手も、落合とのやり取りから、それを肌で感じている。結果、何歳になろうと生き残るための飽くなき技術探究へと向かう。この緊迫感、野球への真摯な姿勢こそが常勝軍団の礎だ。それを築いたのは、指揮官が発する「理」の言葉の数々と、その前後に延々と横たわる「沈黙」。これこそ、落合博満の「言葉の力」である。
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