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「お前を評価できるのはオレだけだ!」落合博満のゲキに荒木雅博が再起…「頑張れ」と言わなかった中日監督時代「悩むのは技術がないからだ」
posted2024/12/31 11:29
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
JIJI PRESS
言葉少なでぶっきらぼう。代名詞のオレ流でドラゴンズを常勝軍団に変えてみせた。高い指導力は、選手時代の実績に基づく卓越した「理論」によって発揮されている。表にはなかなか現れないその言葉の本質を、主力4選手の証言によって解き明かす。
これまで有料公開されていた記事を、特別に再公開します。《初出『Sports Graphic Number773号。肩書などはすべて当時/第2回に続く》ベンチでは、いつも無表情を貼りつけている。ホームランが出たところで、その目元も、口元も、微動だにしない。勝っても負けてもコメントの少ない、「記者泣かせ」といわれる監督会見はもう当たり前の風景となった。
中日ドラゴンズ監督就任以来7年間すべてAクラスで、優勝3度、日本一1度。現代の名将に数えられる落合博満監督に、およそ「言葉」のイメージはない。だが、舞台裏ではそのひと言が選手を成長させ、チームの秩序を保つのに大きな役割を果たしている。
落合から初めて話しかけられた日
昨季、日本記録となるシーズン59ホールドポイントを達成した浅尾拓也は、マウンドで初めて落合から声をかけられた。8月12日の横浜戦、1点リードの8回、微妙な判定で無死一塁となった場面だ。一塁塁審への抗議に出た指揮官は、抗議を終えてベンチに帰る途中、マウンドで立ち止まると浅尾に短く声をかけた。
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「この回は、お前に任せた」
70人近い支配下選手の中で、落合の言葉を聞く選手はそう多くはない。浅尾もそれまで他の多くの選手と同様にグラウンドで声をかけられることなどなかった。’07年に大学・社会人ドラフト3巡目で入団して4年目、勝利の方程式としてなくてはならない存在になって初めて言葉をもらった。
「それまではまったく話しかけてもらったことがなかった。びっくりしました。その後は打者の視点から、僕の投球について話をしてくれることもあります」
監督に認められた――。その言葉は若者に十分すぎるほどの自信を与えた。浅尾は昨季、勝負の行方を左右する修羅場を70試合以上もくぐり抜け、防御率も1.68と自身最高の成績を収めた。