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落合博満がトイレでたった一言「いけるか?」谷繫元信を説明なしで途中交代、和田一浩に「無駄が多すぎる」ドラゴンズを支配した“緊迫感の正体”
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byJIJI PRESS
posted2024/12/31 11:30
中日ドラゴンズ監督時代の落合博満
谷繫元信だけ4回に交代…落合は一瞥もくれなかった
和田は38歳の今でも進化を続けている。落合の圧倒的な理論の積み重ねが選手の信頼を呼び、また成長を促しているのは間違いない。だが、言葉と同等か、あるいはそれ以上に指揮官としての力になっているものがある。落合が発する短い言葉をより深く重く、強くする――それは「沈黙」だ。
昨年4月2日の阪神戦で、ちょっとした「事件」が起きた。その夜、吉見一起と谷繁元信のバッテリーは3回までに5点を失った。すると、落合は4回から谷繁だけを下げたのだ。プライドを傷つけられ、不満の表情を浮かべながらベンチに下がった谷繁に対し、指揮官は一瞥もくれず、何の説明も与えなかった。
じつは、それは初めてではなかった。’06年のオープン戦でも初回の攻撃でミスをした谷繁を即座に交代させ、シーズン序盤は2番手捕手をスタメン起用したこともあった。この時も落合は沈黙した。
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谷繁は荒れた。荒れながらも考えた。そして、今、こういう心境に達した。
「あれは『お前、何、落ち着いてやってんだ。まだ成長できるだろ』と言っていたんでしょうね。自分では勝手にそう思っている」
谷繁は今年41歳を迎えるが、キャンプでも他の選手とほとんど同じメニューをこなしている。落合の沈黙が谷繁という重鎮の横っ面を張り、目覚めさせ、若返らせたのだ。
ベンチ裏トイレで落合が放った“たった一言”
谷繁がオープン戦で外された’06年の終盤戦のある日。ナゴヤドームのベンチ裏トイレで、たまたま落合と一緒になった。
「ここから全部(スタメン)行くからな。いけるか?」
「はい」
これだけで十分だった。谷繁は落合が最も信用している選手のひとりだ。直接、言葉をかけるのは年に1、2度だが、第三者には「チームの中で谷繁が抜けるのが一番困る」と語っている。だが、少しでも隙を見せれば、だれであろうと外す。落合竜の掟に例外はない。谷繁外しと、その後の沈黙はそれを本人とチーム内外に示した。
’04年、監督就任直後の落合は、コーチ陣にあるルールを徹底するよう求めた。
『こちらから選手を指導してはならない。選手が助けを求めてきた時に初めて指導すればいい』
『コーチと選手が一緒に食事に行ってはならない』