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落合博満がトイレでたった一言「いけるか?」谷繫元信を説明なしで途中交代、和田一浩に「無駄が多すぎる」ドラゴンズを支配した“緊迫感の正体”
posted2024/12/31 11:30
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
JIJI PRESS
言葉少なでぶっきらぼう。代名詞のオレ流でドラゴンズを常勝軍団に変えてみせた。高い指導力は、選手時代の実績に基づく卓越した「理論」によって発揮されている。表にはなかなか現れないその言葉の本質を、主力4選手の証言によって解き明かす。
これまで有料公開されていた記事を、特別に再公開します。《初出『Sports Graphic Number773号。肩書などはすべて当時/第1回から続く》
キャンプでもシーズン中でも、落合は和田のスイングを常に見ている。そして歩み寄り、話しかける。逆に和田の質問に答えることもある。歴代通算打率6位の和田(3割1分5厘8毛)と同9位の落合(3割1分0厘8毛)。球史に名を残す右打者2人の会話は、チームメイトですら理解できないという。教え、教えられるというよりは、究極の打撃を求めてともに歩いていくイメージだ。
ただ、その関係も一朝一夕で築かれたわけではない。和田が西武からFA移籍した’08年の春季キャンプ、落合は和田の打撃を見て、即座にこう言ったという。
「今のバッティングを変えないと打てない。無駄が多すぎる」
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和田はこの言葉をすぐには信じられなかった。当然だ。主砲として西武を日本一に導き、個人としても首位打者を獲得した。11年間の積み重ねを一瞬で捨てられるはずがなかった。
「監督が言っていたのはこれかと気づいた」
だが和田はその後、徐々に落合の言葉の意味を知ることになる。シーズンに入ると、捉えたと思った球を安打にできない。打率が上がらない。そして開幕後まもない5月、和田はついに落合の助言を受け入れ、オープンからスクエアへとスタンスを修正したのだ。36歳を迎えるシーズンでの決断だった。
それ以降毎年、和田は落合とともに打撃フォームを変更し、その度に成績を伸ばしている。まさに理論の積み重ねが生んだ信頼関係。前年にMVPを獲得した今季ですら、また新しいフォームに挑戦している。
「最初から信じられたわけじゃないです。でも、自分でもこのままじゃだめだ、監督が言っていたのはこれかと気づいた瞬間があった。だから変えました。今は監督の言葉を信じてやっています。感覚ではなく、理論で言ってくれる。三冠王を3度もとった人はいないわけですから。今年も打撃を変えるのはまだまだ無駄が多いから。打撃に終わりはない。だって10割打てないわけですから。10割打ったら、500打数500安打打ったら辞めますよ(笑)」