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「お前を評価できるのはオレだけだ!」落合博満のゲキに荒木雅博が再起…「頑張れ」と言わなかった中日監督時代「悩むのは技術がないからだ」
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byJIJI PRESS
posted2024/12/31 11:29
中日ドラゴンズ監督時代の落合博満
「お前を評価できるのはオレだけだ!」
その一方で落合の言葉を浴び続ける選手もいる。荒木雅博だ。
「自分を過大評価するやつが多いこの世界で、自分を過小評価する珍しいやつ」
落合は荒木をこう評する。繊細な性格で、心の揺れがプレーに出る。おそらく球界1、2を争うであろうスピードとセンスを持ちながら、プレーに波があることを落合は歯がゆく思っている。そんな荒木に昨季、過酷な挑戦を課した。二塁から遊撃へのコンバート。肩に不安のある選手をあえて、一塁から最も距離のあるポジションに配置転換したのだ。
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荒木にとっては文字通り地獄の日々が始まった。6年連続ゴールデン・グラブ賞の名手が自己最多の20失策。プライドをずたずたにされ、悩んだ末に監督を恨んだこともあったという。
「きついっすよ。ここがだめだって断定される。そして、もっとこうやればいいんだって言われる。正直、もう無理だって思ったこともありましたよ」
だが、落合は頑として荒木を遊撃で使い続け、同時に課題を指摘した。
「おまえ、自分がどれだけの選手かわかっているのか。ぽっと出の若造みたいな立ち居振る舞いをするな」
「他のだれでもない。オレができるって言ってるんだ。お前を評価できるのはオレだけだ!」
落合は「頑張れ」とは一度も言わなかった
浅尾と荒木への接し方を見てもわかるように、落合は選手個々の性格、チーム内における立場によって言葉の数や種類を使い分ける。ただその口から発せられる言葉には共通項がある。常に「情」ではなく「理」なのだ。明らかに心が折れかけていた荒木に、落合は「頑張れ」とは一度も言わなかった。その代わりに放った言葉がこれだ。
「心は技術で補える。悩むのは技術がないからだ」
情は人間の心から生まれる。時とともに変化し、終わりもくる。だが物事の理は不変だ。技術とはつまり「理」を体得することに他ならない。落合は相手と向き合う時、情には頼らない。安易に情をかければ、甘えも出ただろう。逃げ道もあったかもしれない。ただ落合の「理」は荒木を逃さなかった。
「もし『頑張れ』と言うような監督だったら僕はショートをやっていないと思う。今はあの人が『だめだ』と言うまでは(遊撃手を)頑張ろうと思える。僕は自分に自信が持てないけど、そんな荒木雅博が納得するぐらいの技術を身につければ、いつか自信を持てると思う。自分の評価をしっかり客観的にできるようになりたい。そういう気持ちにさせたのは監督なんですよね」
感情ではなく、客観的な目で自分を認めてくれる人がいる。それが荒木の心の拠り所になった。これまで自分を信じきれなかった男は落合の言葉を浴び続け、今、自分を信じようと思い始めている。