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「ディープインパクトに武豊が乗っていなかったら…」調教師が明かす武豊の“神騎乗”「思わず二度見、三度見したほど驚いた」早業とは?
posted2024/11/05 17:06
text by
片山良三Ryozo Katayama
photograph by
Photostud
発売中のNumber1107号「神騎乗伝説」に掲載の[盟友が語る]「最善を重ねる武豊の真髄」より、内容を一部抜粋してお届けします。
ディープに武豊が乗っていなかったら…
武豊の神騎乗は何か? というテーマ。石橋守調教師は「ディープインパクト('02年生まれ、牡、父サンデーサイレンス)の騎乗はどの競馬も味わい深かった。もし豊が乗っていなかったら、あの馬はどうなっていたかと考えたこともある」と、一連の騎乗における人馬のコンタクトの奥深さを強調した。その中でひとつあげるとすれば、菊花賞('05年、GI)だという。
「ディープインパクトが新馬戦を勝った直後から、豊は宝物を見つけたように興奮していました。マスコミには平静を保っていたようですが、僕らから見たらよっぽどすごい馬なんだろうなとすぐに想像がつきました。あんな表情はなかったですからね。連勝を重ねたことで怪物ぶりが知れ渡ることになりましたが、それでも菊花賞は難しいかもしれないと思っていたんです。前進気勢にあふれた馬と見えていましたから、ゴール板を1回通過してさらにもう1周するのは、豊でも苦労するんじゃないかとね。しかも、無敗の三冠がかかった絶対に負けられない戦いでしたからね。そこを豊はやってのけたんです。危惧した通り1周目からその気になってしまったディープでしたが、なだめつつ、しかもやる気を失わせないように運んだ絶妙な騎乗でした」
石橋がもう一つ印象的な騎乗をあげてくれたのは、トゥザヴィクトリー('96年生まれ、牝、父サンデーサイレンス)で勝った、エリザベス女王杯('01年、GI)だ。先行、あるいは逃げでそれなりの実績を残してきた馬に騎乗して、このレースだけは意識的な後方待機。「前半は先行馬群から少し外めに離して馬の行く気を逸らし、追いついたところで馬群にピタッとくっつけて、馬の気持ちのメリハリをはっきりさせようと意図した乗り方。それが見事にはまって、見ているこっちも気持ちよかったほどなので、豊はまさに会心だったと思いますよ。GIであれができるのがすごいんです」。
思わず二度見、三度見。同業者も気づかない早業
55歳の千田輝彦調教師は、競馬学校騎手課程の4期生。武の1年後輩にあたる。在学時はごく普通の先輩・後輩の間柄だったが、千田が伊藤雄二厩舎に配属されたことがきっかけとなって公私を共にする時間が増えていった。ファインモーションやエアグルーヴなど、多くの名馬を輩出し続けた名門だけに、騎乗依頼を受けて頻繁に厩舎を訪ねてくる武と毎朝のように顔を合わせたからだ。