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ソフトバンク「外れ外れ1位」甲子園出場ゼロの高卒剛腕・村上泰斗って何者? 涙のドラフト全内幕…恩師は「本当に評価されているのか不安だった」
posted2024/11/02 17:00
text by
井上幸太Kota Inoue
photograph by
Sankei Shimbun
もしかすると、隣にいる教え子に負けないくらいの緊張感だったかもしれない。
「緊張感、ありましたよ。めちゃくちゃあった」
神戸弘陵を率いる岡本博公が、苦笑交じりに振り返る。
10月24日に開催されたプロ野球ドラフト会議。候補選手たちにとって、幼いころから抱いた「プロ野球選手になる」夢の実現が左右される運命の日である。同時に、手塩にかけて育ててきた指導者にとっても、教え子の門出を祝い、ともに過ごした日々に一区切りが付く特別な一日だ。
今年、神戸弘陵は村上泰斗というドラフト候補を擁していた。最速153キロを記録する直球は、好調時にはプロ野球選手の平均値を大きく上回る2600回転をたたき出すなど、スピード、質ともに出色。甲子園に縁はなかったが、その潜在能力から、「上位候補」「2位以内に消える」とささやかれてきた。
各球団が、指名の可能性がある選手に提出を求める「調査書」は、全12球団から届いた。だが、岡本の胸中から不安が消えることはなかったそうだ。
7年前の冷や汗の記憶
「一応、『上位候補』という風に言われてきてて、スカウトさんたちの評価を聞いても、(指名が)あるんだろうなって思いがありながらも、他の上位と呼ばれている選手たちと違って甲子園に出ているわけでもない。そういった実績のところで、どこまで評価されるのかな、という不安がありました」
不安の一端には、過去の経験もあった。岡本は7年前にも教え子のドラフトに同席している。現在はオリックスでプレーしている東晃平だ。
当時は9球団から調査書が届き、岡本も「支配下(指名)があるもんやと思っていた」が、支配下ドラフトでは名前が呼ばれず。辛くも育成2位指名を受けて、プロ入りが叶ったのだった。
この記憶があったため、周囲から高評価を聞かされても、「ドラフト当日を迎えてみないことにはわからない」という思いがぬぐえなかったのだ。