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ソフトバンク「外れ外れ1位」甲子園出場ゼロの高卒剛腕・村上泰斗って何者? 涙のドラフト全内幕…恩師は「本当に評価されているのか不安だった」
text by
井上幸太Kota Inoue
photograph bySankei Shimbun
posted2024/11/02 17:00
ソフトバンクのドラフト1位指名を受けて涙ぐむ神戸弘陵・村上泰斗と、岡本博公監督
2017年、東のドラフトは報道陣の数も限られたため、校舎内の会議室を会見場としたが、今回は上位候補の前評判があったため、マスコミ各社の取材希望が殺到。会議室では収まり切らないため、野球部のグラウンドの裏手にある、学生寮の1階にあるホールを会見場に仕立てた。
ドラフト当日の会見の様式も、毎年多くの指導者、チームの悩みの種になる。
あらかじめ選手が同席して、報道陣とともにドラフトの経過を見守る形か、別室で待機し、指名を受けてから会見場に現れる形か。東のドラフトでは、「支配下指名の間は別室で待機、育成ドラフトに入ってから、東本人も同席した」(岡本)が、今年はドラフト開始から村上本人も同席する方式を採った。もちろん、上位候補の評判があったからでもあるが、チームを預かる者としての譲れない思いもあった。
「寮はグラウンドの裏にあるので、現役の部員や他の3年生たちもすぐ近くにある室内(練習場)で待機できるんです。保護者もたくさん来てくれましたし、OBも来てくれたので、一体感というか、同じ空間でドラフトを見たいなというのがあって。やっぱり一生に一度の機会かもしれないので、みんなで共有したいなというのがありました」
想定質問集を村上に手渡した
そして、24日。ドラフト前にグラウンドで顔を合わせたときよりも念入りに髪をセットしたと思しき村上の左隣りには、スーツ姿の岡本が座った。ネクタイ、シャツのストライプ、スーツともに濃紺で統一された出で立ちだった。
「各球団のチームカラーってあるじゃないですか。黄色やったら阪神ちゃうかとか、赤やったら……とか。それで『村上の希望の球団はここだったんじゃないか?』とか言われるのは嫌やなというのがあったので。オーソドックスな色で、っていうのがありました。あのネクタイ、去年までずっと一緒にやってくれた、前部長からのプレゼントだったんです。『勝負のときに着けてな』と言われとって。特定の球団と色も重ならないし、その思いもあったので、着けましたね」
報道陣から投げかけられるであろう定番の質問をまとめ、「聞かれたらなんて答えるか考えとき」と、事前に村上に手渡した。岡本曰く「村上は話すのが下手な方ではない」ため、大きな不安はなかったが、指名直後の高揚感に満ちた状況でもつつがなく答えられるように、という親心である。
自身の一張羅を含め、場は整えた。それでも頭をかすめるのは、「本当に評価されているのか」という不安である。不安から来る緊張感が押し寄せる中、ドラフト会議の幕が開く。岡本の心が晴れるのに、そう時間はかからなかった。
目玉遊撃手だった明大の宗山塁、地元選手でもある二刀流の福岡大大濠の柴田獅子の抽選に敗れたソフトバンクが、「外れ外れ1位」で村上を指名したのだ。
<つづく>