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「監督、これ1位あるよ」記者はささやいた…ソフトバンクドラフト1位・村上泰斗はなぜ甲子園出場なしで“高校最強右腕”今朝丸裕喜の阪神2位を上回ったか
posted2024/11/02 17:01
text by
井上幸太Kota Inoue
photograph by
JIJI PRESS
指名の瞬間、村上は驚きの表情を浮かべた後、喜びと安堵感から感極まる。両隣に座る岡本と校長からは、背中をたたかれる。岡本は、背中の後、頭もポンとなでるように触れた。“育ての親”からの労いが見られたのは、会議の開始から約40分後のことだった。
ソフトバンクからの1位指名。これには“予兆”があった。10月初旬に神戸弘陵を訪れたとき、岡本はこう語っていたものだ。
「すごく評価していただいていて、『2位までにはかかる』とか『3位で取れたら相当ラッキーだよ』と言っていただいています。あと、この前、めずらしく福岡のメディアの方が来られたんですよ」
ベテラン記者が「これ1位あるよ」
ドラフト直前にも複数社から取材の申し出があったが、大半は在阪マスコミか雑誌社だった。その中で、ソフトバンクのお膝元である福岡のメディアからも問い合わせがあった。
取材当日に現れたベテラン記者が、岡本にささやく。
「監督、僕の経験からすると、これ1位あるよ」
長年の取材経験から察するソフトバンク陣営の熱量、シーズン順位が下位のチームから指名できる2巡目のウェーバー順を考慮すると、1位指名も十分あり得る……。そんな口ぶりだったという。
その予測通りの1位指名。岡本同様、「ドラフト前は不安が大きかった」という村上は指名の瞬間は涙を流しながらも、すぐに凛とした表情を取り戻し、報道陣からの質問に答える。
「プロで目指す投手像」を問われると、こう回答した。
「自分はストレートにこだわりがあって、ストレートにこだわりたいなと思っているので、プロに入った後に、藤川選手……藤川監督じゃないですけど、“火の玉ストレート”と称されるようなストレートを投げられるように頑張っていきたいと思います」
岡本は「ブレへんかったな」と思いながら、教え子の所信表明に耳を傾けた。