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「最後のバッターがうちの子でよかった」甲子園を見続けてきた伝説の女性記者が今も心に刻む“ある金言”…次の100年へ「高校野球は大きな岐路に」
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph byJIJI PRESS
posted2024/09/27 11:09
3年夏の甲子園は準々決勝で敗れ涙を浮かべるPL学園の福留孝介(1995年)
“ある控え選手”の記事
甲子園の報道はある種特別だ。プロ注目選手はもちろん、その他の選手のエピソードも試合にまつわる人間模様の一部として全国に伝えられる。取材対象はプロアスリートではなくあくまで普通の高校生。だからこそ堀記者が心に留めていることがある。きっかけは、ある試合でヒーローになった控え選手の記事を書いたことだった。
「その場では劇的な話だな、と思って書きましたが、後になってずっと取材してきた地方紙の記者からその選手の背景について詳しい話を聞いたんです。実はその選手は深刻な家庭環境にあって、親への愛情と恐怖とで精神的なバランスを崩していた。元々はレギュラーだった選手がそういった複雑な背景から控えに回っていたんだそうです。
もちろん間違ったことは書いてはいないんですが、その子の背景を全く知らなかったし、書き込めていなかった。甲子園のたかだか15分くらいの取材で何がわかるんだろう、と突きつけられました。簡単に美談になんてしてはダメだ、自分は本当に浅かったな、と。もっとちゃんと人の話を聞いて、時間をかけて色々な情報を集めなければいけないと心に深く刻まれた出来事でした」
100年の“その先”へ…
甲子園は100周年を迎え、高校野球は時代の変化に伴う分岐点に立たされている。指導者と生徒の関係。少子化に伴う部員の減少や野球離れ。そして今夏の大会で話題になった気候変動による猛暑への対策……。
「この30年で2度の震災を乗り越えてきた大会がコロナ禍で開催中止となりましたし、暑さがこれだけ敵になるなんて予想もしていなかった。次の100年に向けてそれをどう克服するか。個人的にはタイブレークも見たくなかったし7回制なんてもう野球ではなくなると思っているんですけど、それでも最優先すべきは選手や応援団、観客など甲子園大会に携わる人たちの生命です。死者が出る前にしっかりと考えていかなければいけない。高校野球は大きな岐路に立っているなと感じています」
「虎に翼」記者が思う「野球の魅力」
堀記者が関西で「女性第1号」だったプロ野球担当記者にも、昨今は女性が増えた。かつては駅の売店に山のように積み上がっていたスポーツ紙もその姿を変え、今や通勤電車の乗客が覗き込んでいるのは新聞ではなくスマホの画面だ。野球の情報を伝える環境もまた大きく変わったが、堀記者を変わらず突き動かしているのは野球の魅力に他ならない。
「野球の一番の魅力は一体感だと思います。06年の第1回WBCの決勝の日、私はちょうどオープン戦の取材で京セラドームにいたんです。電光掲示板に侍ジャパン優勝というニュースが流れた時、球場中が物凄く沸き上がったのを覚えています。当時オリックスにいた清原(和博)選手が試合後に代表選手の名前を挙げて『後輩たちが本当に頑張ってくれた』と感激していた姿も印象的でした。選手の一体感、野球界の一体感、ファンとの一体感。その場にいない人でも喜びや幸せを共有できるのが野球の魅力なのかな、と感じています」(1、2回目も公開中です)
堀まどか(ほりまどか)
1988年に大阪日刊スポーツ初の女性記者として入社し、プロ野球の南海、近鉄、阪神担当を経て95年からアマチュア野球担当。のべ15年近く高校野球などを取材した。現在は編集委員としてプロ・アマ問わず野球の取材に関わる。有料サイト「日刊スポーツ・プレミアム」(https://www.nikkansports.com/premium/)で長編記事を連載中