マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
高校野球“7回制”議論に「危なっかしくて誰も獲れなくなる」プロスカウトの本音…先に導入すべきは甲子園でのコールド制? 現場のリアルな声は…
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byJIJI PRESS
posted2024/08/18 06:00
夏の甲子園で選手宣誓を行った智弁学園和歌山の辻旭陽主将。議論の「7回制」をスカウト、監督、選手ら野球の現場はどう感じたのか
この甲子園では試合に出られなかったある選手の言葉は、胸を打った。
「中学までは自分たち、軟式でも、シニア、ボーイズでも、7イニングの野球でした。それが高校生になって9イニングの野球になって、僕は初めて野球選手になれたような実感がありました。大人になれた実感っていうのか。
そのことが普段の生活でも子供みたいなことしてちゃいけないという自覚とか、自律とかにつながったように思うんです。僕にとっての<9イニング>は、イコール<大人の世界>だったように思います。まわりはどう見ているのかわかりませんけど(笑)」
当事者である球児たちがどう考えるのか
約束事を新たに決めたり、変えたりする時、いちばん肝心なのは、当事者つまり「主人公たち」が、はたして何を望むのか。その一点に尽きるのではないだろうか。
この夏の福岡大会。遠い所で、会場まで2時間以上もかかる開会式への参加を「希望制」にしたところ、およそ4割の54校が参加しなかったという。その多くが、選手たちの議論、討論による決定だったそうだ。
見識による勇断だと思う。
この先の高校野球を、7イニングにするのか、9イニングのままにするのか。そうした「命題」をこの先、決して高校野球をやらない大人たちだけが論じ合って、果たしてどんな「正解」が生み出せるというのか。
実際にこの先の高校野球でプレーしていく高校球児たちが、いったい何を望むのか。その「確認」がまずあって、その次に来るのが、大人たちの議論なのではないか。
まずは時間とお金とエネルギーを費やして、アンケートでもなんでもして「精査」した上で、選手たちがどうしたいのか、その願いの「ほんとのところ」を吸い上げること。
大人たちの本当の仕事とは、球児たちの「ほんとのところ」を実現させるために、組織の叡知を集めて、懸命に知恵を絞ること。ただ、その一点に尽きるように思う。