- #1
- #2
高校サッカーPRESSBACK NUMBER
「隠れてトイレの水を飲んだ」低迷していた名門校…帝京高サッカー部“最後の優勝主将”が明かす、昭和の根性練習「フルマラソンでも水飲み禁止だった」
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byKYODO
posted2024/06/03 17:05
1992年1月の高校サッカー選手権。四日市中央工高と同時優勝し、優勝旗を受ける帝京高キャプテン・日比威
選手たちも羽ばたき始めた。2018年度卒業のDF三浦颯太は日本体育大学を経てヴァンフォーレ甲府に入団すると1年で川崎フロンターレへステップアップ。今年1月のタイ代表戦で日本代表に初選出された。
また、2023年度卒業のFW横山夢樹とDF梅木怜がFC今治に入団。2人とも1年目からコンスタントに出場機会を得ており、梅木は今年3月にU19日本代表に選ばれた。
再生請負人という印象がついたのだろう。今年2月、日比は関東大学リーグ2部でもがいている順天堂大学から声がかかり、監督に抜擢された。これまた異例の転身である。
いったい日比は帝京高校サッカー部をどう改革したのか? 今回はその取り組みをクローズアップする。
「水を飲むことは禁止」
まずは日本一に何度も輝いたチームが、いきなり衰退してしまった理由を解き明かそう。
結論から言えば、「昭和的な根性トレーニング」が時代遅れになってしまったのだ。
日比はキャプテンとして選手権で優勝したとき、次のように感じていたという。
「帝京時代、僕は毎日のように『雨が降ればいいのに』と思っていました。軍隊のようなトレーニングばかりで練習に出たくなかったからです。それでも『おまえたちの先輩はこのやり方で優勝した』と言われ続け、正しいと思い込むしかありませんでした。
でも優勝したときに『やっぱり間違っている』と思ったんです。優勝したことですべてが肯定されるのが嫌でした。少なくとも僕は『本当にこれを先輩はやっていたの?』と疑っていました」
いったい軍隊のようなトレーニングとはどんなものだったのか? 当然のように、練習中に水を飲むことは禁止だった。
日比はこう振り返る。
「あえて擁護するなら、練習で水を飲まないというのは理にかなっている部分もあったんですよ。当時、試合で水を飲めるのはハーフタイムのみでした。『だから35分間、40分間、水を飲まないでトレーニングしなさい』と。
今では喉が渇いてから水分補給したのでは遅いということが科学的にわかっていますが、当時はそういう知識はありませんでした」
「隠れてトイレの水を飲みました」
先生の指示は絶対だが、水を飲まないで激しい運動を続けたら脱水症状になりかねない。日比たちは生き残るために頭をフル回転させた。