甲子園の風BACK NUMBER
監督は“公立大卒→現役社長”の超異質キャリア…春季大会で履正社&大阪桐蔭を連続撃破 大阪学院大高の衝撃「目標は大阪1位じゃなく日本一」
text by
沢井史Fumi Sawai
photograph byFumi Sawai
posted2024/05/07 17:02
現役の社長でもある辻盛英一監督のもとで大阪桐蔭、履正社の大阪2強を撃破した大阪学院大高。もちろん髪型は丸刈りからロン毛まで多様だ
だが、辻盛監督は決して選手に対して声を荒げることはない。僭越ながら筆者が2月に取材でグラウンドに訪れた際も選手への指導は「どうしたいのか、どうなりたいのか」を汲み取り、その理由をしっかり「説く」方法に徹しているように映った。
「(ミスをしても)彼らがなぜ、そうしてしまうのか。厳しく言うのではなく、理由を一緒に考えるんです。その中で最良の方法を見つけながら練習していけたら」
選手との接し方も、経営者らしくフランクな声掛けから始まる。
穏やかなたたずまいから見ても、かつての高校野球の監督像からはかけ離れている印象を受けるが、試合でもどんな状況でもベンチの端で選手たちを見守りながら、共に野球を楽しんでいるようにも見えた。
「ノーサイン野球」で“大阪1位は通過点”
4回戦の履正社戦では高木大希、藤原僚人といった主戦級の2枚看板を打ち崩し、準々決勝ではこの日最速145キロをマークした力強いストレートが武器のエースの平嶋桂知から最後の最後に相手のミスにつけ込んで逆転勝ちした。貫いている「ノーサイン野球」も浸透させながら、またひとつ階段を駆け上がった。
大阪桐蔭との試合を制し、試合後に喜びを爆発させたナインだったが、ベンチ後ろでの取材対応時には、そんな感情は胸の中にしまい込んでいた。
「自分たちは大阪1位が本当の目標ではないので。目標は日本一です」
主将でもある今坂の力強い言葉が通路に響く。
かつてはPL学園が甲子園を席巻した時代が長く続いたが、近年は大阪桐蔭、履正社が大阪の高校野球を牽引してきた。
逆に言えば、「大阪桐蔭、履正社以外の高校には甲子園への道が開けないのか」と絶望するような胸の内を吐露する府内の指導者も多かった。
ある中堅校を率いる監督は「僕らも毎年、頑張ってはいるのですが、どうしても壁が破れないでいるんですよね。何とかしたいと常に思っているのですが」と、もどかしい心情を口にしていた。
だが、そんな大阪の高校野球の指導者の悶々とした空気を取っ払うような大阪学院大高校のふたつの“金星”は、大阪の高校野球界の“転換期”を暗示しているようにも見えた。
本番は夏だ。今春の大阪大会の流れを踏まえ、絶対王者が君臨する大阪の夏から、戦国・大阪の夏となるであろう戦いには、大阪学院大高校の躍進と共にどんな結末が待っているのだろうか。