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「冗談だろ?」角田裕毅が怒り心頭に発したビザ・キャッシュアップRBのチームオーダーはなにが間違っていたのか
posted2024/03/06 11:00
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
Masahiro Owari
またしても、事件は起きた。
2024年の開幕戦バーレーンGP決勝レースの終盤に、今年アルファタウリから名称変更した「ビザ・キャッシュアップRB」チームが、13番手を走行していた角田裕毅に対して、背後に迫ってきたチームメートのダニエル・リカルドにポジションを譲るように指示。いわゆるチームオーダーが発令された。
無線で命令された角田は「冗談だろ」と返し、すぐに指示に従わなかった。なぜなら、指示を受けたとき角田は前を走るハースのケビン・マグヌッセンをオーバーテイクしようと仕掛けていた真っ最中だったからだ。
チームからの再三の指示に、2周後、角田はポジションを譲ることを決意。そして、無線でチームに皮肉を込めて、こう言った。
「ありがとう、みんな。感謝しているよ」
その後も角田の怒りは収まらなかった。なぜなら、譲ったリカルドがマグヌッセンを抜けなかったからだ。角田が譲ったのは、自分の代わりにマグヌッセンをオーバーテイクして、さらにその前を走るドライバーたちを抜いて、チームのためにポイントを獲得してもらうためだった。
チームオーダーの是非
レース後、チームオーダーについて尋ねられた角田は「どうでもいい」と吐き捨てた。角田が怒るのは無理はない。なぜなら、角田にポジションを譲ってもらったリカルドは、結局1台も抜けず、ビザ・キャッシュアップRBの2台はチームオーダーが出される前とまったく同じ13位と14位でフィニッシュしていたからだ。
F1は一番速いドライバーを決める個人スポーツであると同時に、チームスポーツの側面もある。チームに同じマシンを駆る2人のドライバーがいるため、チームが2人の順位を戦略的に入れ替えることでチームとして最高の結果を得ようとする。そのことはF1が開始された1950年代からチームオーダーが存在していることでもわかる。
したがって、チームオーダーそのものが悪いとは思わない。ただし、2人のポジションを意図的に変えるというチームオーダーにはポジションを得るという利益がある一方で、ポジションを奪われた側にとっては精神的なストレスという弊害が起こりうることを十分に意識しなければならない。
得るものよりも失うもののほうが大きい場合、必ず問題が起きる。