F1ピットストップBACK NUMBER
「冗談だろ?」角田裕毅が怒り心頭に発したビザ・キャッシュアップRBのチームオーダーはなにが間違っていたのか
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byMasahiro Owari
posted2024/03/06 11:00
レース後の囲み取材でも角田の怒りは収まらなかった
最近では、2018年ロシアGPのメルセデスが記憶に新しい。チームはバルテリ・ボッタスに対し、ルイス・ハミルトンにトップの座を譲るよう指示。選手権リーダーのハミルトンを前に出すことで、チャンピオンシップ争いをより優先したかったのだろう。しかし、その時点でハミルトンは選手権ポイントで大量リードしていた。さらにその年ボッタスは未勝利だったことを考えると、失うもののほうが大きい、出すべきではなかったチームオーダーだったと言える。
反対に、2021年の最終戦アブダビGPでレッドブルがセルジオ・ペレスに対して出したチームオーダーは、誰もが納得の行くものだった。チームメートのマックス・フェルスタッペンがタイトル争いをしていたからだ。チームはライバルのハミルトンがピットストップした後もペレスをコース上にとどまらせて、新しいタイヤで迫ってくるハミルトンをブロックするよう指示。それを終えた後、直後に迫ってきたフェルスタッペンを前に出すように指示を出した。
レース後、ペレスはこう語っている。
「僕はチームのため、マックスのためにやっただけ。彼のタイトル獲得に貢献できたことを心からうれしく思っている」
チームオーダーは、出された側がその意味を理解して自ら受け入れるような状況でしか使うべきではない。モチベーションが下がるようなチームオーダーはあってはならない。そのことは、ルーベンス・バリチェロとミハエル・シューマッハを入れ替えた2002年オーストリアGPや、フェリペ・マッサとフェルナンド・アロンソを入れ替えた2010年のドイツGPなど、F1の歴史に残る苦々しいチームオーダーの記憶が雄弁に物語る。
初戦にしてチームが招いた危機
果たして、今回の角田の件はどうだったのか?
あのレース終盤でチームオーダーを出しても、リカルドがそれから3つもポジションを上げて入賞する可能性は限りなく低かった。
逆にチームオーダーを出される前に、チームのピットストップ戦略ミスで10番手から13番手に後退していた角田がさらなる後退をチームの指示によって余儀なくされれば、不満が爆発することは容易に想像がついたはずだ。
チェッカーフラッグ後に角田がリカルドを強引に追い抜いた行為は不必要であり、リカルドが「イライラしていたんだろうけど、未熟だね」と非難する気持ちも理解できる。だが、角田をそこまで追い込んだのはチームである。
新生ビザ・キャッシュアップRBは、長いシーズンの始まりにして、ドライバーとチームの信頼関係が崩壊する可能性がある。目の前のポイントより、失った信頼を取り戻すことが、いまは何よりも優先されなければならない。