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「現役続行か、出産&育児のため引退か」悩む29歳の女性ランナーを救った母親からの一言…前田彩里が異例の「産後のマラソン復帰」を決断するまで
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byNanae Suzuki
posted2024/02/18 17:01
29歳で復帰を前提として妊活、出産の決断をした前田彩里。女子長距離のプロランナーとしては異例の挑戦を振り返ってもらった
「JISSで話を聞くまで、自分の体のことを含め、妊娠についてもほとんど知識がなかったです。生理が来ないことも普通にありましたし、そのことについてあまり心配もしていなくて……。それは単純に知識がなかったから。今の子も私と同じであまり知識がないですね。強い選手は生理が来ないと思っていて、強い選手に生理が普通に来ているのを見て、びっくりしていた子もいました。そんなことはないですし、私は逆にそのことに驚いたんですけど、結婚出産など将来のために自分の体のことや生理についてもっと知る必要があるし、それを私たちも伝えていかないといけないと思っています」
「産後復帰」を目指す
JISSでいろんな学びを続ける中、出産と復帰の期限についても話し合いがもたれた。妊娠、出産までの期間から復帰までのプログラムを考えると最低1年半は必要になる。パリ五輪のマラソン選考レースであるMGCは、23年10月開催予定で、そこまでにMGCの出場権を獲得し、戦える体にするには20年度内の妊娠が理想だった。だが、都合よく妊娠できるとは限らない。場合によっては数年かかる可能性もある。
「監督と『できない、できないで妊活が長引いたら、それこそ現役に戻れなくなる。妊活の期限を決めないとね』という話をしていたら、妊娠していることがわかりました。その後は、復帰後のプランも割と考えていきやすかったですね」
2020年12月、長女を出産し、ママになった。同時に、ここから前田は「産後の復帰」というとてつもない苦難の道を歩むことになる。
<つづく>