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「現役続行か、出産&育児のため引退か」悩む29歳の女性ランナーを救った母親からの一言…前田彩里が異例の「産後のマラソン復帰」を決断するまで
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byNanae Suzuki
posted2024/02/18 17:01
29歳で復帰を前提として妊活、出産の決断をした前田彩里。女子長距離のプロランナーとしては異例の挑戦を振り返ってもらった
「寮に入って生活環境が変わり、大学の時とは比べものにならないぐらい練習をするので、ほんとにきつくて。なんでこんなところに来てしまったんだろうと思っていました」
実業団ではマラソンをやりたい気持ちだったが、その前に5000mや10000mで目標タイムが設けられ、そのためにトラックでハードな練習をこなした。なかなか調子が上がらない中、夏にマラソンの日本代表チームのアルバカーキ合宿に22歳の前田が招集された。他の参加メンバーは、野口みずき、福士加代子ら日本マラソン界のトップ選手たちだった。
意識を学んだアルバカーキ合宿
「そこに一人、ポンと行かされて。もう練習がきつくて、きつくて、福士さんに『一番若いのが(集団を引っ張って)いけよー』って言われたのですが、全然ついていけなかったんです。ダイハツの練習でキツいと言っていたのが恥ずかしくなるぐらいでした。速い人って、こんなに練習するんだと驚くぐらい同部屋の野口さんは走っていて、練習ノートもびっしり書いているんです。私は練習についていけず、ほんと何しに来ているのかなっていう感じでしたし、スタッフからも『大丈夫か』と心配されたんですけど、個人的には速い人の意識を学び、練習に参加できたことですごく勉強になりました」
野口や福士のアスリートとしての高い意識は、前田にとっては新鮮で、走り続けていくためには重要なものだと感じた。代表チームの合宿は、1カ月で終わったが、ダイハツチームの木﨑良子がアジア大会の最終調整をアルバカーキですることになり、前田はそのまま残って一緒に練習に取り組むことになった。
リオ五輪出場への夢が絶たれる
「2カ月の合宿でだいぶ体が絞れてきて、走れるようになりました」