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「現役続行か、出産&育児のため引退か」悩む29歳の女性ランナーを救った母親からの一言…前田彩里が異例の「産後のマラソン復帰」を決断するまで
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byNanae Suzuki
posted2024/02/18 17:01
29歳で復帰を前提として妊活、出産の決断をした前田彩里。女子長距離のプロランナーとしては異例の挑戦を振り返ってもらった
「出たかったですね。たぶん、名古屋に出てダメならそのまま引退していたと思うんですけど、そこでチャレンジできなかったことがすごく心残りで……。長引く足の故障や出産、子育てのことを考えると、このまま続けていいのか、すごく迷っていました」
足の故障を完全に治すには、かなり時間が必要だった。当時は29歳でライフプランにあった30歳での出産を考えると、「いっそこのまま引退して、出産育児に注力してもいいのではないか」と思うようにもなった。
母「産後に復帰したらいいんじゃない」
答えを出せずに迷い、母に相談すると、「産後に復帰したらいいんじゃない」と言われた。
「そんな簡単に言うけどと思ったんですけど、それもありだなと思いました。でも、自分がそう思っても会社が認めてくれないとどうしようもないじゃないですか。山中監督に『妊活して、出産して、現役に戻りたい』という話をしたところ、『すごくいいと思う』と応援してくれることになったんです。本当にできるかなという不安はあったんですけど、世の中のお母さんたちは産後も普通に仕事をしているじゃないですか。私たち夫婦にとっては走ることが仕事なだけで、普通のお母さんと変わらないから思い切って妊活にシフトすることを決めたんです」
JISSで気づいた「知識がない怖さ」
前田は産婦人科もあるJISSで足の治療を受けつつ、妊娠を希望している旨をドクターに伝えた。JISSには女性アスリート支援プログラムがあり、アスリートの妊娠出産についてサポートを受けることが可能になっている。前田は、そこでアスリートの出産のモデルケースを教えてもらい、自分の体、妊娠出産について学んだ。