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「現役続行か、出産&育児のため引退か」悩む29歳の女性ランナーを救った母親からの一言…前田彩里が異例の「産後のマラソン復帰」を決断するまで 

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佐藤俊

佐藤俊Shun Sato

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photograph byNanae Suzuki

posted2024/02/18 17:01

「現役続行か、出産&育児のため引退か」悩む29歳の女性ランナーを救った母親からの一言…前田彩里が異例の「産後のマラソン復帰」を決断するまで<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

29歳で復帰を前提として妊活、出産の決断をした前田彩里。女子長距離のプロランナーとしては異例の挑戦を振り返ってもらった

 マラソン仕様に体が磨かれていったせいか、翌2015年の名古屋ウィメンズマラソンでは、周囲をあっと言わせる記録を出した。給水所で接触して転倒し、左膝を擦過傷、左手首を骨折しながらも走り抜き、2時間22分48秒という日本女子歴代8位のタイム(当時)をマークし、日本人1位、総合2位でフィニッシュしたのだ。

 その活躍で世界陸上・北京大会の女子マラソン代表としての出場権を得たが、世界の舞台では13位に終わった。その後、左太腿裏を故障し、リオ五輪国内選考レースの大阪国際女子マラソン、名古屋ウィメンズマラソンともに出走を取りやめ、リオ五輪出場への夢が断たれた。

「JISS(国立スポーツ科学センター)で故障箇所を診てもらった時、3週間ほど経過を見るか、あるいは手術をするかと聞かれたんです。これまでけっこう休んだけど、治らなかったので、私の頭のなかにはもう手術しか選択肢がなくて、パッと決めてしまいました。でも、手術してからもなかなか状態が良くならなくて。自分の人生のなかでも一番キツかったですね」

同じ陸上選手と結婚「基本的には何も変わらなかった」

 長い休養とリハビリに入り、2018年3月の名古屋ウィメンズで約2年半ぶりマラソンに出場、総合15位で復帰を果たした。東京五輪を狙うためには戻っておかなければならないタイミングだった。

 そのあとすぐ、前田はライフステージの変化を迎えた。同年4月、窪田忍(現・九電工)と結婚をしたのだ。

「結婚はしたのですが、私は東京五輪を狙っていきたいと思っていたので、環境は変えたくなかったんです。相手も競技者だったので、そこは理解してくれていたので、基本的には何も変わらなかったですね」

故障、出産のことを考えると、このまま続けて良いのか

 リオ五輪に挑戦さえもできなかったことで東京五輪は、何としてもという気持ちだった。しかし、2019年9月のMGCは右太もも裏の故障で出場できなかった。その後も調整し、出場のチャンスを模索したが、またしても故障のために2020年3月のMGCファイナルチャレンジの名古屋ウィメンズも欠場することが決まった。その瞬間、最大の挑戦と考えていた東京五輪出場への道が断たれた。

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