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「キックオフ直前まで参考書を…」青森山田の元コーチが驚いた“進学校サッカー部”の日常とは? 選手権8強→すぐに難関大学受験へ
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2024/01/16 06:01
昨年の選手権王者・岡山学芸館をPK戦の末に下した名古屋高校。初の選手権でベスト8という成績を残した
ヘッドコーチ就任3年目の今季、大久保は週3〜4日ほどペースで名古屋高に足を運んだ。チームは着実に成長していく。
「練習でシュートを外したらみんな悔しがるようになった。勝てば勝つほど、みんなギリギリの中での緊張感、ハイレベルな駆け引きが楽しいと感じているし、もっと経験したいと貪欲な気持ちを持つチームに生まれ変わったと思います」(原)
その大会意識は、悲願の初出場となった今大会の選手権でも変わらなかった。規則正しい生活を過ごすために、大会期間中の宿舎で消灯時間を決めようと提案した大久保に対し、山田監督は「その必要はないよ」と答えた。
「多くは自宅生だし、そういう縛られた生活もしていない。この子たちは生活の仕方、何時まで勉強をして、何時までに寝て、何時に起きて勉強をしたら頭がスッキリしてやれるかを理解しているから、逆に変に制限を加えると、彼らのリズムを崩して、その時間に寝ないといけないとおかしくなるから大丈夫だよ」
24時間をデザインする力に長けたイレブンは、カウントダウンを楽しみたい大晦日でも全員が22時には就寝していたという。翌朝、「年越しで夜更かしなんていつでもできるので、今はサッカーと勉強のために過ごしていますよ」と、さらりと言ってのける選手たちの逞しさに、大久保はまた驚かされた。
「時間の使い方、切り替えが本当にうまい。大会中に『今日3時間しか勉強できなかった〜!』と悔しがっている選手がいて、それを聞いて『そんなに勉強していたの?』と驚きました」
進学校と強豪校のコラボレーション
大久保が知る勝者のメンタリティーと、山田監督の選手の実情を知り尽くした立ち振る舞いがガッチリと噛み合い、名古屋高は一体となって前に進んだ。だからこそ、初の大舞台でもいつも通りのプレーを披露し、どんな相手にも怯まず、輝かしい成績を残すことができた。
準々決勝で優勝候補と目された市立船橋高に1-2で敗戦。選手たちの実情を誰よりも理解する山田監督は、選手たちにこんな言葉を贈った。
「これで終わりじゃないぞ。3年。これまでは非日常。非日常がこんなに充実したのだから、ここからの日常を充実させよう」
これからが本番――選手たちの目は、誰一人、満足していなかった。
選手権で素晴らしい快進撃を見せた名古屋高イレブンは、ピッチと変わらぬ熱量で次のステージへと歩みを進めている。