「たとえ担架で運ばれたっていいじゃない、ほんとうに頑張ってここまでやって、それで息絶えてだめだとなっても、『落合よくやった』ってなるでしょうという話をしたんですよ。それで、『休んじゃうと、監督もがっくりくるし、いろんな意味でチームのためにならないよ。頼むから出て。打てなければ、フォアボールをねらって一塁に出れば、もうヒット一本と同じ価値なんだから』って」（THIS IS 読売1994年8月号）

まさかの8連敗が…

　落合が四番に戻った夜、松井の14、15号ホームランで快勝した長嶋巨人は、早くも優勝へのマジックナンバー25が点灯するのである。その後、順調に白星を重ね、8月24日の時点でマジック「17」にまで減り、2位阪神とも9ゲーム差に広がった。

「8月に入ってもウチも負けていたけれど、2位、3位のチームも負けている。勝っているのは下位のチームなんだ。で、そっちの方で順位が入れ替わっている。だから、またゲーム差が広がったわけだよ。あのころはまだ、世の中や野球界が『ジャイアンツさん、どうぞ優勝して下さい』と言っている流れの時期だったんだね」（激闘と挑戦/落合博満・鈴木洋史/小学館）

　24日に東京ドームを訪れた渡邉恒雄社長は、「MVPは川相（昌弘）だ。コーチは全員留任。優勝して代える必要はないだろう」なんてナベツネ節でご満悦。1989、90年と連続胴上げ投手になっている宮本和知は、「ハッキリいってボクは狙っています。おいしいところをさらって行くのは、得意ですからね」とV宣言だ。もう9月上旬までには優勝決定かという雰囲気すら漂ったが、夏休みの終わりに事態は急変する。

　余裕が、油断に繋がり、やがて焦りへ。長嶋巨人は、8月25日から19年ぶりの8連敗を喫するのである――。

＜続く＞