- #1
- #2
サムライブルーの原材料BACK NUMBER
「自分が一番、腹立たしい」鬼木達監督が明かした川崎フロンターレの苦悩と哲学…それでも“鬼木ボンバイエ”がやまないのは何故なのか?
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byShigeki Yamamoto
posted2023/10/07 17:58
川崎フロンターレを率いて6年目の鬼木達監督
「経験ある選手を(試合途中に)下げていって、勝負に出ました。もしやられるとしたらカウンターかセットプレーしかないと思っていたなかで最後、相手のセットプレーになった。あのCKも(どちら側のボールか審判の)判断が難しいなかで相手がマイボールを主張しているのに、こちらはやっていない。プラス、(決められた相手を)マークした選手が外され、(ニアサイドに立つ)ストーンに入った選手が動いちゃいけないところで動いていた。経験のなさが出てしまったところはあるかもしれません。しかしそれもあるかもしれないなって頭にあったうえで自分も起用していますから。
何が何でも点を獲りに行かなきゃいけない状況で若い選手を出していって同点につながった、と。次は追い越す作業と相手にもう1点もやらせない作業のバランスと言いますか、この状況、この時間で何をしなきゃいけないのか、どんどん把握できるようになればもっと良くなってくるとは思うんです」
失点に絡んだ選手を責めているのではない。かと言ってミスを想定内として受け入れるわけでもない。歯ぎしりするほど悔しいゲームではあった、痛い目に遭うことで刷り込まれ、選手のみならず自分に向けた教訓としていた。
「こういったことも経験しながら(フロンターレの)これまでの選手たちも経験して成長していきましたから。我慢強くやらなきゃいけないところではあるんですけど、やっぱり自分の仕事としてはチームを勝たせないといけない。じょうずに勝ちながら、選手たちを伸ばしていくのが一番なんですけどね。負けて学ぶっていうのは選手もそうですけど、監督である自分も同じなんです」
「勝たせられていない自分が一番、腹立たしい」
鬼木はそう言って頭を掻いた。
4度のJ1制覇は言うまでもなく監督として歴代最多記録。だがいくらキャリアを積み上げようとも、常に選手たちとともにあろうとし、“選手も自分も成長を”というスタンスを曲げることはない。
開幕前のこと。レアンドロ・ダミアンが手術明け、小林悠がケガ明けで出遅れるなか、クラブはアタッカーの追加補強には動かなかった。サガン鳥栖からレンタルバックの宮代大聖、アカデミー出身で桐蔭横浜大から加入した山田新らに期待をこめた。ジェジェウ、車屋紳太郎がケガで離脱したセンターバックも、ジェフユナイテッド千葉から急きょレンタルバックした田邉秀斗、U―22日本代表の高井幸大ら若い力で埋めようとしてきた。
伸びしろを見越した編成は、現場を預かる身としては、むしろやり甲斐があった。
「確かに外からはいろんな選手が抜けて大変だよねとよく言われました。でも僕のなかではウチにはいい選手がいっぱいいるぞ、と。どの団体スポーツもそうだと思うんですけど、誰かがいなくなったら誰かが出てくるのがチームじゃないですか。だからそこの楽しみというのはずっとあります。
最初はみんな勢いよく、自分の持っているもので勝負していく。でもだんだんとチームに対する責任みたいなものが大きくなっていって、そうなるとプレーが縮こまってしまう。自分たちがやんなきゃいけないっていうプレッシャーだってある。だから特に若い選手には“チームへの責任は気にするな”と言っていますし、監督して自分に何ができるかってところが問われている。勝たせられていない自分が一番、腹立たしい」
「最善策はちゃんとある」
優勝争いどころか上位に顔を出せない苦境。最後は自分にベクトルを向けるため、一つひとつの言葉が重苦しくも感じる。そんな印象を鬼木に伝えると「まったく苦しくないと言ったらウソになるかもしれないですけど、自分が何とかしてやるという思いのほうが強い」と明るい表情で語る。