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サムライブルーの原材料BACK NUMBER
「自分が一番、腹立たしい」鬼木達監督が明かした川崎フロンターレの苦悩と哲学…それでも“鬼木ボンバイエ”がやまないのは何故なのか?
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byShigeki Yamamoto
posted2023/10/07 17:58
川崎フロンターレを率いて6年目の鬼木達監督
タイの英雄であるチャナティップとの“別れ”にも彼らしいエピソードがある。コンサドーレ札幌から2022年シーズンに加入したものの、1年半でリーグ戦での出場は18試合にとどまった。今夏、母国のパトゥム・ユナイテッドへ完全移籍することになった。
その選手への期待値が高ければ高いほど、あまり起用しなかった監督と出場機会に恵まれなかった選手の関係性は、多少なりとも距離が生まれてくるものと想像しがちだ。
だが鬼木とチャナティップの間には確かな絆があった。
チャナティップが帰国の途につく前に、鬼木は空港まで見送りに行くチームの通訳に連絡を入れて夜の駐車場で会うことになった。直接伝えたいことがあったのだという。
「もちろんその前からもチャナとはいろいろと話をしてきましたよ。でももう1回会って、フロンターレに来てくれてありがとう、と感謝を伝えたいなって。そしてタイでの活躍を祈っていると言いました。チャナのプレーは、練習から見ていても本当に楽しかったですよ。
やっぱりフロンターレで一緒にやってきた仲間ですから。チャナだけではなくて、同じタイミングで小塚(和季)が韓国の水原に移籍しました。Kリーグの月間MVP(7月)を受賞したというニュースを聞いたときは心の底からうれしかった。僕が監督のときに成功というところまで持っていけなかったかもしれない選手たちが、フロンターレのベースを武器に、次のチャレンジで開花してくれたらいいと思っています」
鬼木にとって選手とは…
チャナティップのSNSには鬼木と抱擁した写真がアップされていた。監督と選手、立場は違っていても一緒にサッカーをやってきた仲間であり、たとえチームから離れてもその関係性は変わらない。
鬼木にとって、選手とはどんな存在なのか。
思わず口を突いた質問に、彼は真っ直ぐな目を向けて言った。
「自分の子供って言うと変かもしれないですけど、感覚的にはそれに近いというか。常に応援したい存在っていうんですかね。手助けもしたいし、ときに厳しくなったとしても成長させたい。でも監督なんで、最初にピッチに立つ11人を選ばなきゃいけない。僕のなかでは11人も、ベンチに入るメンバーも、ベンチに入らないメンバーも、“差”みたいなものはまったくない。試合に出ることができない選手たちからは“だったら試合に使ってよ”と言われるかもしれないですけど。でも思いとしては、全員に対して変わらない。練習のところではみんなをしっかり見ている自負はあります」
しっかり見ているから、しっかり話すから、手助けをするように才を伸ばせる後押しとなる。思い返せばあの三笘薫に対しても、そうだった――。
<後編に続く>