濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
裏テーマは“アントニオ猪木vs棚橋弘至”? 没後1年、名場面満載「猪木ドキュメンタリー映画」の見応えポイントとは
posted2023/10/07 11:01
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Essei Hara
世間が長嶋茂雄と同じレベルでアントニオ猪木を理解していたら……と嘆いたのは消しゴム版画家でコラムニストの故・ナンシー関である。確か参議院議員時代の猪木が脱税疑惑などの金銭スキャンダルで大バッシングを受けていた頃だ。
世間は長嶋の華麗なプレーも“天然”な言動も愛した。猪木も、単にリング上のスーパースターというだけの存在ではなかった。
公開中のドキュメンタリー映画のタイトルが、そのことをよく表している。『アントニオ猪木をさがして』。つまり「アントニオ猪木はこういう存在だ」と決めつけず、あくまで「さがす」というスタンスで作られた映画だ。
人それぞれの「俺の猪木」
ブラジル移民時代の猪木に関するインタビューから始まり、数々の名勝負、名場面が映し出される。愛弟子・藤波辰爾が猪木への憧憬を語り、藤原喜明は新日本プロレス札幌大会で長州力を襲撃した「テロ事件」を振り返る。藤原が語るプライベートでの猪木の姿もたまらない。そう、猪木はスター選手でありダジャレ好きのおじさんでもあった。
いったいいくつの顔があるのか分からない。アントニオ猪木は多面体で、人それぞれに「俺の猪木」があり、それぞれの猪木像もまた変化していく。だから『アントニオ猪木をさがして』なのだ。
俳優・安田顕は本作の撮影に際し、猪木を追い続けた名カメラマン・原悦生氏との対談を望んだ。原氏が語るイラクでの人質解放、キューバでのカストロとの対談のエピソードも、魅力的すぎる猪木の一面だ。
講談師・神田伯山は猪木とマサ斉藤の巌流島での一騎打ちを講談で披露。有田哲平は新日本プロレス道場を訪れ、ある猪木ファンの人生を描くドラマパートも。そして現代の新日本を代表する棚橋弘至、オカダ・カズチカが語る猪木も興味深い。