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藤井聡太21歳〈八冠へあと1勝〉大逆転に映るが…明るく電話に出た永瀬拓矢31歳のタメ息「急に寝なさいというのは無理ですよね」 

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大川慎太郎

大川慎太郎Shintaro Okawa

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photograph by日本将棋連盟

posted2023/09/28 17:29

藤井聡太21歳〈八冠へあと1勝〉大逆転に映るが…明るく電話に出た永瀬拓矢31歳のタメ息「急に寝なさいというのは無理ですよね」<Number Web> photograph by 日本将棋連盟

藤井聡太竜王名人が逆転劇で2勝目を挙げた王座戦第3局。永瀬拓矢王座の心境はどのようなものだったか

 対局室に入ると、すぐに主催紙のインタビューが始まった。

 藤井は「終盤は負けの形だと思っていました」とポツリと漏らした。それを聞きながら永瀬は首をかしげて、投了した盤面を凝視していた。しばらくして天を見上げる。首を下げてから右の拳を額に当てて、また再度天を見上げた。

 永瀬の番になり、優勢だった終盤について訊かれると、正着だった底歩は「第一感だった」と明かした。そして「対応がうまくできなかったと思う」と漏らした。逆転負けを喫した直後だったが、声のトーンは普段とそれほど変わらないようだった。

感想戦で判明した“恐るべきこと”とは

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 熱心なファンが詰めかけた大盤解説会に両対局者は顔を出して挨拶をし、対局室に戻って感想戦が始まった。検討が急所の終盤戦に入る。当然、代案の底歩も並べられたのだが、恐るべきことが判明した。

 銀を捨てて急所の金を動かし、後手玉に迫る順があるというのだ。

 金が移動すると、打ったばかりの底歩を飛車で取られる。竜の王手は強烈だが、持ち駒の飛車を打って受ける手があるという。取材で感想戦を見ていた勝又清和七段が「そんな手があるのか」と小声で漏らした。検討していたプロでさえ気づきにくい手なのだ。とはいえ先手の攻めが続きそうでいかにも怖い。検討の結果、後手がしのいでいることがわかったが、決して「金底の歩、岩よりも堅し」ではなかった。

 終盤での逆転劇だったが感想戦は和やかな雰囲気で行われ、検討が進むにつれて両者から笑顔が見られるようになった。永瀬が「あーそうですか」「あー、そうでしたか」と藤井の発言を尊重していたのが印象に残った。

日付が変わり、永瀬は明るい声で電話に出た

 日付が変わった9月28日、午前0時半。感想戦が終わってから3時間が過ぎていた。2コールもしないうちに永瀬は明るい声で電話に出た。

 最初に「ずっと完璧でしたよ」と終盤の入り口までの永瀬の指し手についての感想を伝えると、「そうらしいですねえ、フフフ」と余裕の返答があった。

 やはり訊きたいのは、逆転が起こった終盤戦についてだ。

「底歩は第一感だったんですけど、その先をしのぐ順が正確に読めていなかったんです。先手には飛車で歩を取る以外にも、歩の上に銀を打つ手もあって、それもきちんと理解できていませんでした。時間が切迫している状況で読みのスピードも足りなかったですし、総合的な判断もできていませんでした」

 本譜、底歩を逃した直後に藤井に角で金の両取りをかけられたが、あれはうっかりだったのだろうか。

【次ページ】 大逆転に映るが、対局者の実感はどうなのだろうか

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