「うーん、エアポケットに入った感じでしたね。その前の局面で先手が飛車で王手をせずに角を打つと手抜いて桂で王手が利くんです。それはわかっていたので、お互いに飛車を打ち合っても角打ちはないと錯覚をしてしまいました」

大逆転に映るが、対局者の実感はどうなのだろうか

　その角打ちを喫した直後、永瀬が自分で頬を張ったことについて訊くと、「覚えていますよ」と苦笑した。「飛車を打って受けた瞬間に角を打たれることに気づいたんです。逆転されたのはわかりました。あ、今は（精神的に）大丈夫ですよ。もう終わったことではあるので」と語った。

　そうなのだ。電話の永瀬の声はずっと冷静で、一つ一つの問いにも丁寧に心情を明かしてくれている。外から見ていると、つまりABEMAやモバイル中継の評価値を見ていると大逆転のように映るのだが、対局者の実感はどうなのだろうか。

「この将棋は後手が居玉なんです。だからどれだけ形勢がよくなっても、最後に必ず先手がラッシュをしてくるので、一勝負あるんですよ。ということは、勝敗はまだわからない。最後の一太刀をかわさなきゃいけないことはわかっていたんですけど、対応を間違えてしまいました」

©日本将棋連盟

　やはり見た目ほど簡単ではなかったのだ。

　あまりに永瀬の声が落ち着いていたのでそう告げると、「あ、そうですね。終わった瞬間は帰りたいと思ったんですけど（笑）」とこちらを笑わせてから、「藤井さんの話を聞いていると明らかに難しい局面でしたし、自分に足りない部分がよくわかったのはよかったです。あと途中までは正確に指せていたようですしね」と話した。

「永瀬さんは明日も将棋を指すんですか？」

　永瀬にとって、何とかタイに戻したい第4局は10月11日。2週間後だ。

「そこまでにやることは変わらないです。将棋の内容自体は悪くないと思うので、ギアをもう少し上げる意識で日常を過ごさなきゃいけませんね」と決意を見せた。

　永瀬に取材すると、必ず最後にぶつけるお決まりの質問がある。

「永瀬さんは明日も将棋を指すんですか？」

　タイトル戦の翌日は移動日なので普通は休息にあてるが、永瀬は練習将棋を入れていることが多い。

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