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高校野球で“勝ち過ぎた”監督、香田誉士史が明かす…慶応の優勝に何を思ったか? 17年前、駒大苫小牧で体感した「内臓にくる」応援の魔力
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2023/09/28 11:03
かつて駒大苫小牧を率いて、夏の甲子園を席巻した香田誉士史
香田 早稲田と慶応は、われわれが日本野球の発祥であるというプライドがあるからね。あの2校がからんでくると、世の中全部でかかってくるような感じがある。こっちがヒール役になったような気分になるしね。もう、高野連の関係者も、審判も全員、早稲田のユニフォーム着てんじゃない? みたいな。
――2006年夏の決勝は結局、再試合の末、早実に軍配が上がりました。あのときの記憶があったので、この夏も、これは慶応かなと思ってしまいましたよね。
香田 決勝の前日かな、おれのところにも記者から電話があってね。メディアの人たちは「やっぱり育英が強いですよね」っていう感じだったんだけど、おれは「いや、慶応じゃないかな」って言ったんだよね。決勝の慶応の応援力は半端ないと思うよ、って。
敵か、味方か…甲子園の応援
――慶応と対戦したチームの選手は「自分たちの応援だと思うようにした」って言うんですけど、それってできるものなんですかね。
香田 難しいと思うよ。声の圧力って、視界まで奪うような力があるから。感覚がおかしくなる。ピンチのときにあれをされると、テンパっちゃうんだよ。
――試合後、慶応の応援が物議を醸しましたけど、かといって何か規制するのも難しいですよね。声を出し過ぎるなとは言えないじゃないですか。
香田 そうだよ。声を出すのを楽しみに来てるんだろうし。
――香田さんは逆の立場も経験していますよね。
香田 2004年、2005年は応援を味方につけて連覇できたからね。特に最初の優勝のときはすごかったな。「北海道、がんばれ!」って。相手が関西のチームでも、ぜんぜん応援で負けてる感じはなかったから。むしろ、こっちの方が応援されているような感じでさ。2006年も決勝までは、そんな感じだったんだよ。甲子園では早実戦だけじゃないかな。アウェー感を覚えたのは。
――よく「負けてても負けてる感じがしなくなる」と話していましたよね。実際に、あの時代の駒大苫小牧は本当に劇的な逆転勝ちが多かった。
香田 だって4点も5点も負けてても、ノーアウトから1本ヒットが出ただけで、うわーって盛り上がるんだもん。なんか、勘違いしてくるんだよ。あれ、これ、また逆転しちゃうんじゃね? って。球場の雰囲気がその気にさせるんだよ。
今年の高校野球、どう見た?
――そういう野球以外の要素が入り込んでくるところが、高校野球のおもしろいところではありますよね。年齢的なものもあるのでしょうが、精神の揺らぎみたいなものが見えやすい。