核心にシュートを!BACK NUMBER
「3ポイント決定率10分の0」…なぜ富永啓生のシュートは入らなかった? それでもチームメイトが賞賛する“納得のワケ”《バスケW杯オーストラリア戦》
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byFIBA
posted2023/08/30 17:01
決められなくても最後まで3Pシュートを放ち続けた富永の姿勢はチームの戦術の象徴でもあった
「世界でもっとも走るチームを目指しマス!!」
そんなホーバスHCの目標自体はすでに達成しつつある。
実際、これまでの3試合の前半の戦い方には課題が残る一方で、後半の20分間のスコアだけを見ると、どの試合でも相手を上回っているからだ。優勝候補の強豪国相手に地力では劣る日本が、粗削りながらもHCの目指す方向に成長を遂げていることを表している。
そして、何よりも大切なことがある。
それは、日本の選手たちが自分たちのスタイルを信じて貫き通していることだ。そこが5戦全敗に終わった前回のW杯とは決定的に異なる。
前回W杯で代表チームが陥った「自滅」
前回のW杯のことを少し振り返ってみる。アジア予選ではスピードを武器にして相手に走り勝つ「ラン&ガン」のスタイルで崖っぷちからの8連勝を飾り、本大会出場を決めた。
しかし、本大会直前になって、「格上相手と点の取り合いをすれば分が悪い」と当時のフリオ・ラマスHCが判断。攻撃のペースを極端に落とし、自分たちのシュートチャンスを減らすかわりに、相手のシュートチャンスも減らす戦いを選択した。
その結果は悲惨だった。日本の良さと勢いは影を潜め、ゆっくりとした攻撃をしたために相手とのフィジカルの勝負に巻き込まれた。そして、フィジカル能力の差で劣る日本は5連敗を喫した。現在の日本代表のなかで最年長の比江島は、前回大会の最終戦を終えたタイミングで、方針転換して自滅したチームのこんな思いを吐露している。
「自信をなくした夏でした」
そんな苦い経験を経た今の日本は、違う。フィジカル能力や経験の差では世界に劣るものの、スピードと運動量が武器になるとハッキリ認識している。だから、ハイペースの戦いに持ち込み、点の取り合いで優位に立つべく3Pを多用すると決めたのだ。そして、その戦いを信じて貫けば、優勝候補相手でも互角に戦えるという感触を、日本はこの試合の後半で手にすることができた。
前回大会を経験している馬場雄大は試合後に「本当に、希望しかないです」と断言した。
「(今のチームには)『芯』がある。『日本のバスケはこういう戦いをするんだ』という話は、トムさんがHCになってからずっと言われてきていますから。『周りは関係ない。自分たちのバスケをするかどうかだ』と」