ワインとシエスタとフットボールとBACK NUMBER
「カンボジア国民との間にギャップがあった」元カンボジア代表GM・本田圭佑の腹心が語った“本田体制不発”の真相
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byGetty Images
posted2023/08/08 17:01
2021年のスズキカップに臨んだ本田GM。このときのカンボジアはラオスから1勝を挙げたのみで、グループリーグ敗退という結果に終わった
もうひとつはカンボジアという国がそもそもコンプレックスや劣等感を抱えていた。経済規模は東南アジアでも小さい方で、ポルポト派の内戦による荒廃もあった。そんななかに国際的な知名度のある人が来たことだけでも感謝され、劣等感を減らしてくれたと言われました。
また、今年9月に開催されるU23アジアカップ予選において、カンボジアはポッド2に入りました。組み合わせに恵まれた部分もあったんですが、2021年に福島で開催された前回のU23アジアカップ予選で香港に勝ったのが効いている。目に見えづらいですが、アジアにおけるカンボジアのプレゼンスは確実に上がったと思います。もちろんそれは本田GMの力だけではなく、カンボジアサッカーの育成に携わった人たちの力によるものなんですが。
——レガシーが残っていくための土壌がこの国にはあるのか、という疑問もあります。
木崎 レガシーの継続という点では、第1次体制のときのポゼッションはリーグのサッカーを変えた。攻撃的サッカーをするチームが増え、今も継続しています。それまでは上位チームも、ロングボールばかりを蹴っていた。芝生の状態も悪く、アフリカ人やブラジル人の大きなフォワードに当てるサッカーでした。
第2次体制では、確かに失敗した印象が最後のシーゲームスで強まりましたが、2022年12月の三菱電機カップでは評価を大きく上げていたので、もしそこで終えていたら印象はだいぶ違ったと思います。インドネシアやタイ相手に善戦し、カンボジア代表選手5人に国外のクラブから問い合わせが届いたほどでした。タイサッカー協会の幹部にとっても衝撃だったそうで、今後、本田GMがタイ代表監督になる可能性は結構あると思います。タイに住まなければならないという条件はつきそうですが。
本田GMとカンボジアに生じた齟齬
言い訳になりますが、第2次体制に関していえば、フェリックスがプライベートの事情で代表から離れたことが痛かった。現地でクラブの監督と密に接する人材がいなくなり、それによって本田GMのコンセプトや狙いがカンボジア側に伝わりづらくなった。たとえば選手選考の基準について、クラブ側は「フィジカルを重視しすぎてサッカー的な要素が薄れているのではないか」という疑問を持っていたようです。
カンボジアサッカー協会の主催でフェリックスが定期的にフェイスブックLIVEを行い、本田GMのコンセプトを説明していたんですが、その場がなくなったのも影響したでしょう。
意図をうまく共有できなかったのは、2度目に臨んだシーゲームス(2022年。本来は2021年開催予定だったがコロナ禍で延期された)もそうだったかもしれません。自国開催のシーゲームス(2023年)に出られる選手に経験を積ませるために、この大会ではオーバーエイジが2枠許されていたのに使わなかった。さらに先を見て20歳以下の選手を中心に集めた。多くのカンボジア人にとって理解できない選考だったでしょう。本田GMは契約を延長する際に自国開催のシーゲームスを最大の目標にすると協会からコンセンサスを得ているんですが、カンボジアの人たちはおそらくそれを知らない。すべての過程にベストを尽くして欲しいと思うカンボジア国民の間にギャップがあったと思います。