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「カンボジア国民との間にギャップがあった」元カンボジア代表GM・本田圭佑の腹心が語った“本田体制不発”の真相 

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田村修一

田村修一Shuichi Tamura

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photograph byGetty Images

posted2023/08/08 17:01

「カンボジア国民との間にギャップがあった」元カンボジア代表GM・本田圭佑の腹心が語った“本田体制不発”の真相<Number Web> photograph by Getty Images

2021年のスズキカップに臨んだ本田GM。このときのカンボジアはラオスから1勝を挙げたのみで、グループリーグ敗退という結果に終わった

——覚醒の種は蒔いたということでしょうか?

広瀬 それもあるし、プロというか、サッカー選手はこうあるべきというのを授けてくれたと思います。

——当初はポゼッションサッカーをやっていて、その後はカウンターサッカーに切り替えた。何がきっかけで、戦術的な変更を加えたのでしょうか?

広瀬 各種の大会から、今の形で攻めるのが一番適している、カウンターでしか点を取るチャンスが芽生えてこないことがわかったからです。

——本田さんと広瀬さんは、今後どうされるのでしょうか?

広瀬 本田GMは膝の手術も終えてまだ痛みはあるようですが、トレーニングをして選手を目指すことと、指導者として勉強しながら違う国、違うチームで指導するかなと思います。私はもう歳も歳なのでちょっとゆっくりして、好きなサッカーを外から見たいと思っています(この会見からほぼ1月後の6月15日、広瀬の長野パルセイロ・レディース(WEリーグ所属)監督就任が発表された)。

ビデオアナリスト・木崎伸也の証言

——5年間のレガシーとして何が残ったと思いますか?

木崎 まず思いつくのは、攻撃サッカーのフィロソフィー・美学を植えつけたこと。それまではカウンターサッカーでした。カンボジアは東南アジアでも最も弱い国のひとつだったので、とにかく守ってカウンターという文化だった。そうではなくて「いいサッカーをしよう」と。

 カンボジア人は平均的に身体が細いし小さくて当たり負けする。勝つチャンスが高まるのは自分たちがボールを保持することだと、本田GMは最初から言い続けた。勝敗は関係ない。7割のポゼッションを目指すと目標を設定した。凄いことを言うなと思ったけど、繰り返しているとそれが当たり前になってきて、GKから繋ぐスタイルが定着した。その成果が2019年のシーゲームス(22歳以下+オーバーエイジ2人)で、グループステージを突破して初のベスト4に進んだ。カンボジアでは準決勝や3位決定戦でパブリックビューイングが開催され、お祭り騒ぎになった。タイ協会の人には、フットサルみたいなサッカーをするねと言われました。

 それが第1次体制でのことで、第2次ではフィジカルにアプローチした。A代表ではこの取り組みが2022年12月、三菱電機カップ(旧スズキカップ)のフィリピン戦の勝利につながり、初めてカンボジアが同大会で2勝をあげることができました。カンボジアの人たちにとってはエポックメイキングなことだったそうです。2023年のシーゲームス(22歳以下。この大会ではオーバーエイジの規定は採用されなかった)はグループステージで敗退してしまいましたが、今後もしかしたら種となって花が咲くかもしれない。

 大人になってからテクニックの上達は難しいけど、フィジカルならできると徹底的に追求した。これもまた極端なアプローチですが、「身体のパワーをつけよう。それには食事が大事だ、休養や睡眠が大事だ」と、プロ意識を植え付けようとしたのも大きな取り組みだった。最後の大会で結果が出なかったので成功例にはなっていませんが、何かしら文化に影響を与えたのではと期待しています。

【次ページ】 本田GMとカンボジアに生じた齟齬

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