ワインとシエスタとフットボールとBACK NUMBER
「国民が求めています。もっとやりましょう」カンボジアサッカーを変えた本田圭佑に足りなかったのは契約条件? それとも情熱?
posted2023/08/08 17:02
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph by
JIJI PRESS
◆◆◆
本田圭佑のカンボジアでの仕事検証の最終回である。
日本サッカー協会(JFA)のアジア貢献で派遣された日本人のグループと本田グループの距離は、本田がカンボジアで活動した5年の間ほぼ縮まることはなかった。それとは対照的に、本田グループに協力的だったのが、CEOとしてカンボジアにプロリーグを立ち上げた斎藤聡だった。
FCバルセロナ国際部からJFAを経てAFCでも働いた斎藤は、FIFAコンサルタントとして10年前から継続的にカンボジアと関わっている。本田に対しては、協力もするが批判もする。斎藤は本田をどうサポートし、彼の仕事をどう評価しているのか。一時帰国していた東京で話を聞いた。
本田体制の問題点
——本田とはどういう関係でしたか?
斎藤 課題をお互いに理解しながら、話しあってやっていました。私もシーゲームスに勝ちたかったので、本田さんに対してたぶん一番文句を言ったと思います(笑)。最後に本田グループを空港まで送りに行ったら、「斎藤さんが一番代表を批判しましたね」と言われた。それが嬉しくて。自分の言葉が彼らにちゃんと届いていた。
本田さんが2018年に就任したとき、日本でのプレー経験を持つアルゼンチン人のフェリックスが監督としてほぼ常駐していた。人間的にも人格者で、彼が選手を見ていたし、クラブともコミュニケーションが取れていた。
ところがコロナ禍になり、さらにフェリックスがいなくなって、広瀬(龍)さんが監督を継いだときに常駐する人がいなくなった。そこが一番の問題点で、もし誰かがいたら、だいぶ変わっていたと思います。
——もうひとつはフィジカル路線に変更したことです。それまでは勝負を度外視してプレーの構築を優先していたのに、それでは勝てないと考え直して、フィジカル強化に方向転換した。
斎藤 それは実は違います。フィジカルは本田さんが不在の状況下で、一番強化できることのひとつであって、フィジカル路線に9割がた針が振れたわけではない。プライオリティのひとつとしてやろうということでした。
彼が代表で求めるものをリーグのレギュレーションに落とし込んで、一緒にやろうと就任前に話しました。そのひとつがフィジカルフィットネステストで、これをやらないとリーグに出場出来ないようにしましょうと。フィジカルトレーナーが各クラブを回ってテストする。でもクラブ側から猛反発されて……。
本田さんはフィジカルを選考基準のひとつにすると明確にしたけれども、クラブとのコミュニケーションがあまりなかった。彼が言うだけで後のフォローアップ——フィジカル以外はこうやるんだよというのがなかったので、フィジカル路線に転換したと思われたんです。
小松(聖政)さんというトレーナーを常駐させて、クラブを回って代表候補選手がどういう状況でフィジカルトレーニングをやっているかを把握しようとした。クラブにアドバイスができたらよかったのですが、「うるせえ、お前に何がわかる」という感じで門前払いを食らってしまった。そこをもっと押し切れば良かったのですができなかった。
私も間に立ってクラブオーナーと話し合い、フィジカルテストの実施と結果報告を受け入れてもらった。最初は走れなかったのですが、シーゲームスのときはみんな走れるようになっていました。
あとはリーグ戦で、U22の選手を90分間のなかで必ず2人入れなければならないルールを作った。それもシーゲームスに向けてのことで、クラブからは非難ごうごうでした。