ワインとシエスタとフットボールとBACK NUMBER
【真相ルポ】カンボジア代表強化の切り札・本田圭佑が、5年間のGM在任で残したレガシーとは《総決算の大会で敗退》
posted2023/08/08 17:00
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph by
AFLO
◆◆◆
この5月、本田圭佑が実質的な監督(プロライセンスを持たないため、公式な身分はゼネラルマネージャー=GM)を務めるカンボジアU22代表は、シーゲームス2023においてグループリーグ突破を果たせなかった。東南アジア諸国が参加し、日本では東南アジア競技大会と呼ばれる総合スポーツ大会のプノンペン開催が10年前に決まったときから、カンボジアは国家の威信をかけて準備を進めてきた。五輪やアジア大会同様に年齢制限があるサッカーにも力を入れ、本田の招聘は東南アジアでも実績のないカンボジアの、初のメダル獲得の切り札となるはずであった。
2018年8月にGMに就任して以来、本田はカンボジアサッカー界最大のスターであり続けた。本田ほどのネームバリューと経歴を持つ人物が、カンボジアに関わることなどこれまでになかったからである。
だがA代表は、上昇の兆しを見せた時期もあったものの、カタールW杯2次予選でイランに2試合合計で24失点を喫するなど最下位に終わった。ただしシーゲームスでは、2019年大会で初めてグループリーグを突破している。満を持しての今回は、直前に3カ月の長期合宿を組んだ。本田にとっても集大成の大会であり、本田ならばやってくれるという期待は膨らんでいったのだが……。
初戦の東ティモール戦こそ4対0と快勝したものの、続くフィリピン戦は終了間際に追いつかれ1対1の引き分け。準決勝進出を懸けた運命のミャンマー戦は、内容は接近しながらも0対2の完敗。最終戦も優勝したインドネシアに1対2と敗れ、グループ3位に終わった。インドネシア戦の翌日、関係者を集めたレセプションパーティを開いた本田は、総括の記者会見をおこなうこともなく早々にプノンペンを去った。
今大会のカンボジアは、金メダル81個を獲得した(参加国中第4位)。同国始まって以来の快挙だが、そんな中で男子サッカーだけが期待を裏切ったのだった(女子は3位決定戦でタイに敗れ4位)。
カンボジアサッカーへの日本の貢献
ほとんど知られていないが、カンボジアはアジアで最も多くの日本人が協会やリーグの中枢で働く国である。日本サッカー協会(JFA)からはアジア貢献で唐木田徹が約15年にわたり審判ダイレクターを務め、小原一典は技術委員長として9年目を迎える。他にもU18代表監督の行徳浩二とU16監督の井上和徳の計4人が活動している。さらに昨年、プロリーグを立ち上げ、CEOとして同国のプロサッカー発展に寄与している斎藤聡も、FIFAコンサルタントだった10年前から継続的にカンボジアサッカーに関わっている。
そして本田グループである。A代表とU22代表を統括する本田とそのスタッフたちは、国際舞台におけるカンボジアのエンブレムでもあった。2021年3月に契約が更新されての第2次本田体制からは、広瀬龍が代表監督に就任した(第1次体制の代表監督はアルゼンチン人のフェリックス)。