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大阪桐蔭・西谷監督が激白する“絶対王者視される”苦悩「試合内容も知らずに…」「黙ってやっていくしかない」異常な人気…“桐蔭バブル”の今
posted2023/08/20 11:03
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
Hideki Sugiyama
昨夏の甲子園、注目はただ一点に絞られていた。どこが大阪桐蔭を止めるのか――。そのダントツの優勝候補が、下関国際の前に準々決勝で散った。なぜ大阪桐蔭は土壇場9回に逆転を許したのか。なぜ下関国際は異様なまでに冷静だったのか。西谷浩一と坂原秀尚。両校監督へのインタビューから、ノンフィクション作家・中村計氏が迫った。【NumberWeb集中連載「計算された番狂わせ」全7回の#2】
思えば、2022年夏の甲子園の注目は、ただ一点に絞られていた。
〈どこが大阪桐蔭を止めるか〉
〈ストップ・ザ・大阪桐蔭〉
ネット界隈を中心に、そんな論調の記事が溢れ返っていた。
その心情はわからないでもなかった。「3番・捕手」の松尾汐恩(DeNA)を中心とする世代は、まずは2021年秋の明治神宮大会を制する。そして、続く2022年春の選抜大会は記録ずくめで頂点に立った。17-0で大勝した準々決勝の市立和歌山戦でマークした1イニング3本塁打も、1試合6本塁打も大会記録。続く準決勝の國學院久我山戦は13-4、決勝の近江戦は18-1と準々決勝以降は3試合連続2桁得点し、1大会を通じてのチーム本塁打新記録(11本)も打ち立てた。大阪桐蔭は、2回戦は、対戦相手の広島商業に多数の新型コロナ感染者が出たため、不戦勝している。つまり4試合でチーム最多本塁打記録を塗り替えてしまったのだ。
ここから「桐蔭狂騒曲」が始まったのだ。西谷浩一は、ため息交じりにこぼす。
「(2022年の)選抜が終わってから、世の中のマスコミがおかしくなった。春夏連覇した根尾(昂=中日)たちの代のときもすごく言われましたけど、ここまでではなかったですよ」
絶対王者と言われて…西谷の本音
西谷の下関国際戦に関する回想は淡泊だった。「僕、すぐ忘れるので」と。嘘だ。西谷ほどあらゆるところに神経を配り、その分析と保存に長けたリーダーはそうはいない。
あの試合を、忘れられるはずがない。だからこそ、表面上は、さばさばとした風を装ったのだ。