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プロ野球スカウトも驚き「ノーマークだった」大阪桐蔭を封じた“下関国際の右腕”…なぜ覚醒? 番狂わせまでの“誤算”「ごまかすのが大変だった」
posted2023/08/22 11:04
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
Hideki Sugiyama
「ラッキーでしたね」
下関国際の指揮官、坂原秀尚は1回裏にいきなり2点を失ったにもかかわらず、意外にも笑みさえ浮かべてそう振り返った。
下関国際は、この日も先攻だった。下関国際は甲子園でこれまで計12試合戦っている。そのうち11試合までが先攻なのだ。この夏は決勝までの5試合、いずれも先攻だった。
下関国際はなぜ「先攻」を選ぶのか
甲子園に出てくるようなレベルのチームは大抵、後攻を取りたがるものだ。終盤までもつれた場合、裏の守りの方が重圧がかかるからだ。一方、もっとも緊張する1回表の守備を嫌って、先攻を取りたがるチームもあるが、甲子園ではごく少数派だ。
したがって、甲子園で先攻を取ることはさほど難しいことではない。たとえジャンケンで負けても、相手は大抵、後攻を選ぶからだ。
坂原は先攻を好む理由をこう語る。
「後攻の方が有利かなって思うんですけど、僕、現役時代、ピッチャーをやっていて。1回表のマウンドが嫌だったんです。プレイボール直後の1球目、何を投げればいいのか。それがすごく嫌で。試合って、進んでいけばいくほど、いろんなことが見えてくるじゃないですか。審判のストライクゾーンの傾向だったり。そういう情報を少しでも集めた上で、最初の守備につきたいんですよ」
坂原の読み「前田君は2番目にくる」
大阪桐蔭の先発は、甲子園初先発となる別所孝亮だった。実質、3番手といっていい投手だ。坂原は大阪桐蔭の投手起用をこう読んでいた。
「川原(嗣貴)君は前の試合で完投していたので、ないなと思っていました。それで、前田(悠伍)君は2番目にくるんだろうなと。このあと、まだ準決勝、決勝と控えているので最初からは使いたくはないだろうなと思っていました」
3年生の川原と2年生の前田。この2人が、この年の大阪桐蔭の投手陣の柱だった。大阪桐蔭は、どこで前田につないでくるか。それがこの試合の一つのポイントでもあった。
1回表、下関国際の攻撃は、三者凡退に終わった。