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大阪桐蔭・西谷監督がいま明かす“9回逆転負け”あの下関国際戦の真相「たぶん初めてだった」甲子園騒然のトリプルプレーはなぜ生まれたか
posted2023/08/20 11:02
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
JIJI PRESS
昨夏の甲子園、注目はただ一点に絞られていた。どこが大阪桐蔭を止めるのか――。そのダントツの優勝候補が、下関国際の前に準々決勝で散った。なぜ大阪桐蔭は土壇場9回に逆転を許したのか。なぜ下関国際は異様なまでに冷静だったのか。西谷浩一と坂原秀尚。両校監督へのインタビューから、ノンフィクション作家・中村計氏が迫った。【NumberWeb集中連載「計算された番狂わせ」全7回の#1】
3秒から4秒。時間にして、それくらいの出来事だった。プレーが完成した瞬間、甲子園球場はどよめきと大歓声に包まれた。
「たぶん、初めてだったような……。甲子園では間違いなく初めてです。普段もないと思いますね」
まるで飲み込みにくいものを少しずつ咀嚼するかのようにそのシーンを振り返ったのは、大阪桐蔭の監督、西谷浩一である。
あのトリプルプレーの「真実」
2022年8月18日。全国高校野球選手権大会12日目の準々決勝の第3試合、下関国際と大阪桐蔭の試合は、決勝を除けば、この大会のクライマックスだった。
3-4と1点を追う下関国際は7回裏、0アウト一、二塁のピンチを迎える。マウンドは6回途中からリリーフしたショート兼投手の、ひょろりとした体格の仲井慎。監督の坂原秀尚が「彼はボールの回転数が2500回転ぐらいある。プロレベルの回転数なんです」と讃えるように、先発した古賀康誠が左のエースなら、右のエースと言っていい存在だった。
右打席には大阪桐蔭の7番打者、大前圭右が入っていた。二、三塁に走者を進めたかった西谷は大前に対し、セオリー通り、初球から送りバントのサインを出した。
一、二塁の状況における最良の送りバントは、打球を三塁手に捕らせることだ。そうすれば三塁でアウトになることはまずない。そうさせたくない下関国際バッテリーは1球目と2球目、外のコースをつき、いずれも外れてボールカウントは2ボールとなる。
ここで西谷がサインを変えた。