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「いつでも引退できるんで」大阪桐蔭・西谷監督が語る“勝っても負けても”騒がれる現状「何をするのも嫌に…」「心の安定剤は子どもたち」
posted2023/08/24 17:01
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
Hideki Sugiyama
甲子園では、勝利したチームが先にグラウンドを出る。
グラウンドからベンチ裏に続く通路の入り口は、一塁ベンチの横に設置されていた。そのため、一塁側ベンチに陣取っていた大阪桐蔭は、ちょうどそのあたりで待機していた。
敗戦後の“称賛シーン”も…
三塁側ベンチから下関国際のスタッフと選手がやってきて、先頭にいた監督の坂原秀尚が大阪桐蔭の方に向かって一礼したとき、同じく列の先頭にいた西谷浩一は自ら歩み出て、坂原の手を取って何かひと言声をかけた。
坂原の記憶では「ありがとうございます。がんばってください」と言われたのだという。西谷は「おめでとうございます」と声をかけたのだと振り返った。
あのタイミングで監督同士が握手をする光景は見たことがなかった。
直後、そのときの西谷の振る舞いを報じる記事がネットに何本か上がった。すると、書き込み欄は、西谷の行動を称賛する声があふれた。負けて悔しいだろうにさすがだ、と。
だが、西谷はマイナスな報道ではないにせよ、そうして何でもかんでもいちいち大げさに取り上げられることにうんざりしていた。
「もう、嫌ですね。そういう風に書かれるのは。いつもはベンチ裏でインタビューを受けたあと、相手の監督さんのところへあいさつにいくんです。勝っても負けても、年上も年下も関係なく。ありがとうございました、と。ただ、あのときはコロナでそういうことができなかった。だから、パッとこられたときに、負けたし、ただ、あいさつをしとこうと思っただけなんです。僕にとっては当たり前のことなんで。特別でも何でもない。ただのあいさつです。それを、そのように言われるので。次からは、もうやらないです。だんだん何をするのも嫌になってきましたね」
うちでやりたいという子と一緒にやりたいだけ
大阪桐蔭はこの夏、大阪大会の決勝で惜しくも敗れた。しかし、時代は、まだ大阪桐蔭のものだと言っていい。勝ち続ける限り、こうした状況は大なり小なり続いていく。