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〈森保ジャパンのキーマン〉新コーチ・名波浩のサッカー哲学の原点とは「ロッカールームで泣いている選手もいた」ジュビロ磐田が誇った史上最強時代の秘密
 

text by

北條聡

北條聡Satoshi Hojo

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photograph byJIJI PRESS

posted2023/06/16 11:03

〈森保ジャパンのキーマン〉新コーチ・名波浩のサッカー哲学の原点とは「ロッカールームで泣いている選手もいた」ジュビロ磐田が誇った史上最強時代の秘密<Number Web> photograph by JIJI PRESS

森保監督の右腕となる名波コーチ(右)

ジュビロには隙がなかった

 ただ、いくら破壊的な攻撃力があっても勝てるとは限らない。二川はその難しさをよく知っている。2012年にJ1で最多得点を記録しながら、J2降格という苦い経験を味わったからだ。

「試合内容が悪いとは感じていなかったので、結果が出ないのはなぜだろうと。攻守のバランスの問題なのか、ボールの取られ方の問題なのか……。もう、どうしたらいいのかと悩みました。

 それを考えると、当時の磐田は隙がなかったんでしょうね。いろいろな意味でバランスが良かったんだと思います」

駆け引きで守る、という特殊性

 二川とはまた違った視点で最強ジュビロを見つめていた人がいる。東京ヴェルディで最終ラインの手前に陣取り、流麗なパスワークの中心となっていた林健太郎だ。

「当時の磐田にはすごく点を取るイメージがありましたね。ただ、守りも強かった。堅いというよりも、上手いんですよ。

 例えばボールを持ってパッと顔を上げたときにコースが空いていれば縦パスを入れる。それが1本成功したとしても次は必ず消されている。そうして次々に僕たちの選択肢を減らしてしまうんです。

 パスコースを空けておいてパッと取ってしまう。こちらも『わざと空けているな』と気づけばパスは出さない。だから彼らは気づいていないフリをするんですよ。

 そういう駆け引きが上手い。みんな上手いんですよ。他のチームと対戦していて、そういう感覚はなかったなと。激しく守ってくるチームとか強固なブロックを組んで守ってくるチームはありましたけど、磐田みたいに上手に守ってくるチームはなかったですね。チーム戦術というよりも、一人ひとりの個人戦術が高レベルだった」

 パスワークの回転軸として1本のパスに神経を研ぎ澄ませてきた林ならではの視点である。同じピッチの上で戦った者たちにしかわからない磐田の凄みだろう。

 二川は攻めが強いと言えば、林は守りも強いと言う。いかにも史上最強チームらしい懐の深さだ。このあたり、当事者たちはどう感じていたのか。

【次ページ】 レアル対策として誕生した、2001年の『N-BOX』

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