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女子プロレスと“悪質ファン問題”の本質とは? わいせつ写真投稿に法的措置検討も、団体が「撮影禁止にはしたくない」理由
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2023/06/10 11:02
「ワールド女子プロレス・ディアナ」大会の光景。他団体、フリー選手も参戦し盛り上がりを見せている
スターダムの人気上昇もあり、女子プロレスへの注目度が上がっている現在は、他団体にとっても新規ファン獲得のチャンスだ。海外からの旅行客も入国制限緩和で増えていく。その中には熱心なプロレスファンもいる。なにしろ東京では、毎日どこかでプロレスの興行があるのだ。
「そういう人たちが足を運びやすい業界にしていかなくては。悪質な観客に対しては毅然とした対応を取るし、必要なガイドラインも作る。まず、その姿勢を示したかったんです。正直にいうと、これまではお客様の良識に頼っていたところがありました。というのも、私ども含めプロレス団体はどこも人手が少ない。毎回の興行を進めていくことが優先で、なかなか手がつけられなかったというのが実情です」
「法的措置は手段の一つであって目的ではない」
そんな中で、ディアナが先鞭をつけたことにも理由があったようだ。
「ある意味、幸運だったのはIT化補助の活用で入った新しいスタッフが、一般の大企業で広報を務めてきた女性だったことです。“女性がこれだけ輝いている世界はない”と女子プロレスを好きになってくれて、だからこそ悪質な観客への対応について優先順位が高かった。“これでは社会に受け入れられないです”と。やっぱりこれがコンプライアンスの最前線で働いてきた人間の感覚なんだなと。私も気付かされた部分がありますね。
加えて団体のトップである井上京子、ジャガー横田という大ベテランが“やってみるといいよ”とゴーサインを出してくれました。“私たちの時代は”とか“チケットを買ってくれるお客様に注文をつけるのはどうなんだ”といったことは言われませんでしたね。それも大きかったです」
どの業界にもそれぞれの内部での事情、固有の“常識”がある。その中でディアナには“世間一般の感覚”が持ち込まれていた。ベテランの理解があり、小回りもきいた。
「今は業界がよりよくなるための出だしの段階。どうしても“悪質な観客に法的措置”といった面が注目されてしまうと思うんですが、それは手段の一つであって目的ではないんです」
目指すのは、古参にも新規にも、そしてもちろん選手にも優しい業界作り。団体とファン、マスコミが協力しあえば、女子プロレス界の自浄能力を示せるはずだ。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。