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右足切断から4年、義足レスラーの再出発…かつて“幻の金メダリスト”と呼ばれた男・谷津嘉章(66歳)の現在「闘うと(痛みは)飛ぶね」
posted2023/06/02 17:01
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Norihiro Hashimoto
義足のプロレスラーがいる。しかも66歳の。
谷津嘉章。レスリングのフリースタイル重量級で無敵を誇り“幻の金メダリスト”と呼ばれた。活躍が期待された1980年のモスクワ五輪を、日本がボイコットしたためだ。
同年、新日本プロレス入り。アメリカでデビュー戦を行うという破格の扱いだった。日本での初戦はアブドーラ・ザ・ブッチャーとスタン・ハンセンに血まみれにされたが、長州力の維新軍に加入して存在感を増すと、全日本プロレスではジャンボ鶴田との「五輪コンビ」でベルトを巻いている。昭和から平成初期のプロレスファンなら「オリャ!」というかけ声とともに谷津の奮闘ぶりを記憶しているはずだ。
4年前に右足を切断「喪失感がひどかった」
その後、SWSを経て1993年にSPWFを設立。またさまざまな事業にトライしつつ、レスリングのベースを買われて総合格闘技のPRIDE、グラップリングの世界大会アブダビ・コンバットに参戦したこともある。
そんな谷津が右足を膝下から切断することになったのは、2019年。原因は糖尿病による合併症だった。一時は「喪失感がひどかった」と言うが、それでも谷津のバイタリティは衰えない。
東京オリンピックの聖火ランナーとなり、高校時代を過ごした栃木県足利市を走った。プロレスではDDTのビッグマッチに参戦。パラアスリートにも関わる義肢メーカーに谷津も協力して“プロレス用義足”を開発した。
「足をなくしてから、何にでも興味を持ってチャレンジしようという気になったよ。相手には“遠慮すんな”と言いたいね」