濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
右足切断から4年、義足レスラーの再出発…かつて“幻の金メダリスト”と呼ばれた男・谷津嘉章(66歳)の現在「闘うと(痛みは)飛ぶね」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2023/06/02 17:01
2019年に右足を切断し、義足レスラーとして活動を続ける谷津嘉章。新団体「hotシュシュ」にて久々のシングルマッチを行った
“義足レスラー”、久々のシングルマッチ
そんな言葉とともに“義足レスラー”として再出発。今年4月12日には「hotシュシュ」のプレ旗揚げイベントに登場した。
hotシュシュは女子プロレス団体アイスリボンと同じ運営会社ネオプラスが手がける新団体。SPWFからデビューした元レスラーで、アイスリボンのリングアナを務めてきた千春が代表だ。アイスリボンと違い、こちらは男女混合の団体となる。
谷津にとっては、愛弟子の新たな出発にあたってひと肌脱いだ形。対戦した勝村周一朗(ガンバレ☆プロレス)は、千春の格闘技(木口道場)の先輩だ。自身もMMAジムを営む勝村の姿を、RIZINでの所英男のセコンドとして見たことがある人も多いだろう。
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シングルマッチは久々だという谷津。リングに上がる階段を一歩ずつ踏み締める姿は、それだけでも大変そうではある。
対戦相手の本音「最初はどうすればいいのかなと」
「実際の話、最初はどうすればいいのかなと思いましたね」
勝村は振り返る。だからゴング直前、レフェリーに「あれ(義足)はありなのか。凶器じゃないの」とイジって観客の反応を確かめてみた。同時に「義足は武器にもなりうる」という予備知識を提示したわけだ。
「僕はプロレス少年でしたからね、試合できて嬉しくて仕方なかった。(谷津の得意技)ブルドッキング・ヘッドロックをかけられた時は“よし!”って思っちゃいましたよ(笑)」
もちろん、いつもの試合とは勝手が違っただろう。でも10分間時間切れ引き分けの試合は、勝村にとって何か特段“気を遣う”ようなものでもなかった。タックルで倒され、スープレックスで投げられ、自分は関節技で追い込む。相手の弱点を突こうと右足を攻めたら、義足が固くて逆にダメージを受けてしまった。そこで観客がドッと沸いた。