濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
右足切断から4年、義足レスラーの再出発…かつて“幻の金メダリスト”と呼ばれた男・谷津嘉章(66歳)の現在「闘うと(痛みは)飛ぶね」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2023/06/02 17:01
2019年に右足を切断し、義足レスラーとして活動を続ける谷津嘉章。新団体「hotシュシュ」にて久々のシングルマッチを行った
谷津が見せた“義足だから面白いプロレス”
さらに谷津は義足でのキック「アイアンレッグラリアット」も披露。“義足なのに試合ができている”ではなく“義足だから面白い”プロレスがそこにあった。全盛期の動きとはほど遠いのは当然だが、今の谷津嘉章にしか見せられないプロレスが楽しかった。
「いやもう、尊敬しかないですよ。義足当ててきて“アイアンレッグラリアット”って(笑)。それはやりすぎだろってくらいのことをやってくるんですからね。どうしてあれだけポジティブでいられるんだろうって。ネガティブなできごとを自分の使命に変えたんですかね。しかもそれをやってるのがただの選手じゃない、谷津嘉章なんですから。こういう人がいるってことが、たくさんの人に伝わってほしいです」(勝村)
思うように動けなくても「(痛みは)飛ぶね」
基本的な立ち位置としては“特別ゲスト”の谷津だったが、大会のエンディングにも参加。hotシュシュの練習生たちとも記念写真に収まった。バックステージで取材陣の質問に答える姿は堂々としていて、同時に飄々としてもいた。北関東のイントネーションが入っているから余計なのだろうか、深刻そうな雰囲気を出さないのだ。印象としては20年以上前、アブダビ・コンバットで取材した時と変わらなかった。
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「なかなか楽しかったね。シングルマッチは自分のペースでできるから。タッグだと相手(パートナー)も意識しないといけないからね」
思うような動きはできたかと聞くと、即座に「無理無理」。そこから「でもね」と続ける。
「こんなハンディがあるわりには、ね。義足は体調によって痛くなったりならなかったり。今日はどっちかっていうと合わなかった。でもリングに上がって闘うと(痛みは)飛ぶね。試合が終わってみると“あと10分くらいできたんじゃないか。まだ途中だよ”っていう感じがしてね」
レスラーとしてだけでなく人間の先輩として尊敬すると勝村は言った。確かにその通りだ。谷津はプロレスの試合という“表現”で、人生の苦境そのものと闘っている。それも楽しげに。