Number ExBACK NUMBER
駅伝ファンもビックリ…なぜ高校駅伝の名門校は“坊主頭をやめた”? 中学生が不安そうに「やっぱり坊主強制ですよね?」佐久長聖高監督が語るウラ側
text by
山崎ダイDai Yamazaki
photograph byJIJI PRESS
posted2023/05/11 17:19
2008年に全国高校駅伝で初優勝した佐久長聖。アンカーは坊主頭の大迫傑だった(写真)。佐久長聖は同大会に長野県代表として1998年から25大会連続で出場している
佐久長聖といえば前任の両角速監督(現東海大監督)時代から、全国の高校駅伝強豪校の中でも、規律の厳格さで有名な学校である。
高見澤が言うように、少なくとも同監督の就任以来は部に髪型の明確な決まりがあったわけではない。とはいえ、実際に入部すると先輩たちはみんな坊主頭にしている。そんな環境の中で、なかなか「このまま髪を伸ばします!」というのが難しいのも理解できる。
明文化されてはいないものの、ある意味で慣習化してしまっていた“坊主”の流れが変わったきっかけは、昨夏のことだった。
「夏のインターハイ前に出場選手と面談をする時間があるんです。大会の目標や心構えなどの話をするんですが、そこで永原と松尾(悠登、4月から東京国際大)の2人から『髪を伸ばそうと思います』という話をされました」
2人が髪型について話をしてきたのは、こんな理由からだったという。
佐久長聖はとにかく「坊主」のイメージが強い。中学生の選手たちもそういうイメージをもっていて、敬遠されているんじゃないか。だからこそ、「そうじゃない」ということを自分たちで全国にアピールしたいんです――。
中学生から「坊主にしないといけないですか?」
実は、それを聞いて高見澤自身も思い当たることはあったという。
例えば、ここ5年ほどは勧誘に行った時、中学生から「坊主にしないといけないですか?」と聞かれることが年を追うごとに増えていた。入学後の髪型の話が話題に出ることも多かったという。
前述のように、高見澤としてはあくまで「やるべきことをやっていれば髪型はなんでもよい」というスタンスだった。選手本人たちのモチベーションが頭を丸めることで上がるならともかく、そうでなければ坊主である必要性は感じていなかったからだ。
「私はいつも『別に強制じゃないから』という話はしていたんですけど、実際入ってみて先輩たちがみんな坊主だと気にするんでしょうね。確かに永原も入学当初は長かったのに、気づいたら丸めてしまっていて。結局、去年まで『髪を伸ばしたいんです』と言ってきた子はいなかったです」
一方で自身も同校のOBであり、高校時代を坊主頭で過ごした高見澤としては「伸ばすのは全然構わないけど、坊主の方が楽じゃない?」という個人的な感想もあったという。普通に考えれば坊主の方が髪を整える時間もかからず、乾かす手間もない。それもあり、特に髪を伸ばすことを推奨することもなかった。
その上で、選手たちに伝え続けてきたのは「自覚と責任」という言葉だった。
「髪型が坊主でも長くても、自分が陸上選手であるという“自覚”と、チームの一員であるという“責任”を持って生活することですよね。『やるべきこと』というのは別にトレーニングやタイムだけの話じゃないんです」
例えば、日々の部屋の整頓ができているか。日頃の授業態度はどうなのか。周囲の人への挨拶はしっかりできているか――。そういう部分を選手たちがどう捉えているのかが大事だと考えていた。調子を崩す選手は、往々にして日常生活にその兆しが見えることがほとんどなのだという。
「髪なんか伸ばすから…」とは言わせない
だからこそ「髪を伸ばしたい」と言ってきた松尾と永原には、「もちろん問題ないけど、仮に髪を伸ばして日常生活がおろそかになれば、今まで以上に厳しく見られるのは認識しておかないといけない」という話をした。もし髪を伸ばして、日常生活に乱れでも出れば、周囲から「髪なんて伸ばすから……」という意見が出るのは容易に想像がついたからだ。