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“ミスター・レッズ”福田正博はなぜ古巣・浦和に厳しいのか…“サッカーの街”のクラブが果たすべき使命とは?「愛とはちょっと違うんだ」
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byKeiji Ishikawa
posted2023/04/24 11:03
現在は解説者として活動する傍ら、スクール事業にも注力する福田正博。一歩離れた位置から古巣レッズを見守っている
古巣のレッズにおいて2008年のホルガー・オジェック、ゲルト・エンゲルス体制、09〜10年のフォルカー・フィンケ体制をコーチとして支えた。特にフィンケ監督のもとでは学ぶことだらけだった。
「フィンケさんのトレーニングには必ず相手がいて、味方がいて、ボールがあって、ゴールがある。その中でルールを変えたり、ゴールの置き場所を変えたりして選手に考えさせて、試合で必要なことが身に付くような工夫がされているんだ。それに、フィンケさんの物事の見方や選手の評価の仕方とか、本当に勉強になったよ。
よく日本の指導者が海外に勉強に行くけれど、やっぱり“お客さん”だから、1カ月くらいじゃ本当のところは分からないんだよね。ヨーロッパから指導者を呼んで、同じグループでシーズンを通して働くからこそ学べることがある。そういう意味では俺はすごくラッキーだった」
それにもかかわらず、なぜ、今は指導者の道から離れているのか。
週2回のスクールで子どもたちに伝えること
福田は10年にレッズを離れて以降、プロクラブのコーチには就任していない。
「ちょっと嫌なものを見たということがあるな(笑)。プロクラブの仕組みというか、裏の世界というか。それを知ったがために、難しいと感じた部分はある。俺って純粋なところがあるからさあ。きれい事だけじゃダメなんだよ、プロは。あのまま続けていたら、サッカーや人のことが嫌いになっちゃいそうで。将来のことは分からないけど、今はプロチームで指導者をやるよりも、子どもたちに教えているほうが自分に合っていると思う」
現在、解説業やコメンテーター業と並行して、子どもたちへの指導も行っている。
自らサッカーチームを立ち上げているわけではなく、スクールで週2回程度教えているだけだから、選手として劇的に変えようとか、日本代表を育てようとは思っていない。基本的なスタンスは解説業と変わらない。
「この選手は俺が育てたとか、そんなのおこがましいし、到底できるとは思ってないよ。でも、36歳まで現役をさせてもらって、日本代表としてもプレーさせてもらって、こういうことにもうちょっと早く気づいて、身に付けていたら、もっといい選手になれたのにな、っていう思いがある。それを子どもたちに伝えて、彼らの成長の一助になれたらいいよね。何かしらのヒントになれば。子どもたちのため、と言いつつ、自分のためにやっている感じかな、正直に言うと」
子どもたちのため、浦和レッズのため、Jリーグのためではなく、あくまでも自分はサッカーが好きだから――。
「人のためなんて、恩着せがましいじゃん。自分が好きでやっていることが、少しでも誰かの助けになっていたら、最高だよね」
だから、福田正博は今日も自分が感じたことを言葉にして伝えていく。
(全4回/完)